研究課題/領域番号 |
17H04968
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
田原 義朗 同志社大学, 理工学部, 准教授 (30638383)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ワクチン / エマルション / solid-in-oil / アジュバント |
研究実績の概要 |
前年度までの検討でS/O/Wエマルションはワクチンアジュバントとして高い活性を示すことが明らかとなっていた。そこで今年度は、そのような高い活性を示す要因(メカニズム)を解明することを目的として研究を行った。その結果、S/O/Wエマルションは従来のO/Wエマルションよりも高いワクチン活性を示すにも関わらず、皮下投与後の抗原提示細胞への抗原送達能力などは、ほぼ同等であるという結果となった。これまでに他の研究者から報告されてきたワクチンキャリアの多くは、リンパ節や抗原提示細胞への抗原送達量が上がるという報告が多かった。よって今回のS/O/Wエマルションは、これまでに報告されてきた他のワクチンキャリアとは異なるメカニズムによって、高いワクチン活性が得られている可能性が高い事が分かった。このような新しいメカニズムによって効果を示すワクチンシステムは、今、世界的に切望されているワクチン開発の研究領域に新しい科学的知見を与えるものである。そこでS/O/Wエマルションアジュバントのワクチン活性に関するメカニズム解明は、より高度な実験が必要であると考えられ、次年度も引き続き行う課題とした。ここで研究当初の計画では実際の治療への応用も重要な目標となっていた事から、S/O/Wエマルションアジュバントによる癌治療への応用も行った。その結果、従来のO/Wエマルションよりも癌を治療する効果が高く、S/O/Wエマルションは優れた癌ワクチンのアジュバントである事も明らかとなった。これは前年度までのモデル抗原によって得られていた高いワクチン活性を実証する結果であり、再現性も高いワクチンシステムであることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前年度までの検討で得られた、S/O/Wエマルションはワクチンアジュバントとして高い活性を示すという結果を前提として、そのような高い活性を示す要因(メカニズム)を解明することを目的として研究を行った。具体的には、抗原のみ、O/Wエマルション、S/O/Wエマルションの3種類について、皮下投与後の細胞や、リンパ節内の細胞への抗原の取り込みを評価した。細胞は抗原提示細胞であるマクロファージ、樹状細胞、B細胞をフローサイトメトリーで解析した。その結果、抗原のみよりも、O/Wエマルション、S/O/Wエマルションは高い抗原送達を示した。一方でO/WエマルションとS/O/Wエマルションには、そこまで抗原送達能力に差がなく、他のワクチンキャリアで一般的にうたわれているメカニズムとは異なる事が示唆された。よってさらに詳しい検討が必要であることから、メカニズム解明は次年度も引き続き行う課題となった。ここで研究当初の計画では実際の治療への応用も重要な目標となっていた。前年度まではモデル抗原を用いた抗体産生や、細胞傷害性T細胞などの活性によって、ワクチン効果を判断していたが、これらの効果をさらに実証するためにも、S/O/Wエマルションアジュバントによる癌治療への応用も行った。その結果、従来のO/Wエマルションよりも癌を治療する効果が高く、S/O/Wエマルションは優れた癌ワクチンアジュバントである事が明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの検討によって、S/O/Wエマルションアジュバントは、抗体産生、細胞傷害性T細胞の活性化、癌の増殖抑制効果、いずれにおいても高いワクチン効果を示しており、新しいワクチンアジュバントとして期待される。さらに今年度の研究によって、S/O/Wエマルションはこれまでに他の研究者によって報告されてきたワクチンキャリアとは異なるメカニズムによって、高いワクチン効果を示すことが示唆された事から、次年度はこのメカニズム解明を引き続き行う。具体的には今まであまり注目されて来なかったような抗原提示細胞への取り込みについてフローサイトメトリーで評価する。さらにリンパ節だけでなく皮膚内の細胞についても同様に抗原の送達量を評価する。また今年度の検討でほとんどの抗原提示細胞への送達は同等であるという結果を踏まえると、これらの検討によっても抗原の細胞送達は同程度である可能性は考えられる。その場合は抗原提示細胞内での現象が鍵となっている事が考えられるため、抗原提示細胞内での抗原分布について共焦点顕微鏡によって評価する事を試みる。これまでにも、ある特定の時間におけるエンドソームとの局在などは検討してきたが、これらの時間変化などには注目してこなかった。今年度の研究では、抗原が細胞に取り込まれた後に、どのタイミングでリリースされ、分解が起こるのかなどについて、共焦点顕微鏡によるタイムラプス観察などを試みる予定である。
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