研究実績の概要 |
放電室内部の電子の輸送現象を解明するために,数値解析コストが低い小型の100W級ホールスラスタを昨年度までに設計,製作し,今年度はこのスラスタの推進性能,真空度依存性および排気プルーム特性の評価を実施した. 昨年度本予算で整備したキセノン排気速度2,000 L/sの小型真空チャンバーとJAXA共同利用設備であるキセノン排気速度22,000 L/sの大型チャンバーの2つの実験環境を用いて,小型ホールスラスタの性能評価を実施し,真空チャンバー内圧力が1/6になると,同一作動条件でのアノード効率が最大で5%減少すること,また,放電電流振動が開始する磁束密度が低磁場側にシフトすることを確認した. また,大型チャンバーを用いた高真空環境下において,放電電流振動が比較的抑制されている放電電圧225 Vでの放電電力100 W作動時のホールスラスタヘッドの代表性能として,推力5.7 mN,比推力1,060 s, 推力電力比57 mN/kW, アノード効率0.30を確認し,現在各国が開発している小型ホールスラスタと同程度の性能であることを確認した. 加えて,昨年度までに設計,製作した排気プルームの計測装置を使用し,排気プルームを計測した結果,中型・大型ホールスラスタと比べて,放電電流振動を抑制するために必要な磁束密度が高磁場側にシフトすること,また,小型化に起因する狭い放電チャネルにより推進剤利用効率の低下も確認された.さらに,放電電流振動によりイオンの生成量に変化が生じることも明らかになり,これらの顕著な特性を数値解析が捉えることができるか,今後評価を進める必要がある.
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