数値解析コストが低い小型の100W級ホールスラスタの損失内訳を把握するために,排気プルームの詳細な計測を今年度は実施した.また,放電室内部の電子輸送現象をより詳細に把握するために高速移動プローブを用いた放電室内部のプラズマ診断を試みた.加えて,実質量をもった電子とイオンを粒子として扱ったFull-PIC法による数値解析による流れ場の把握を行った. 昨年度までの実験結果を踏まえ,実験の誤差要因となる排気プルーム領域での粒子間の衝突が軽減される10^-4 Paオーダーの真空環境下において,排気プルームの詳細な計測を実施した結果,大型のホールスラスタと比較して,1つのイオンを生成するのに使用するエネルギーおよび2価・3価イオンの生成率はスラスタサイズに大きく依存しないことを確認した.一方,小型ホールスラスタの低推進性能の原因は,推進剤利用効率の低下およびビーム発散角の増大に起因することが判明した. 推進剤を電離するのに必要な距離はスラスタのサイズに依存しないのに対して,推進剤を電離する領域はスラスタサイズが小さくなるほど,小さくなるため,スラスタを小型化するほど推進剤利用効率が低下することが理論的考察および実験結果から判明した.また,数値解析結果から,大型ホールスラスタに比べて,小型ホールスラスタは放電室壁面に形成されるシース領域の電位降下が放電室内の電位分布に強く影響を及ぼすことが分かり,実験および数値解析結果の両面から,ホールスラスタは小型化するほどイオンの発散角が大きくなることが示唆された. 加えて,Full-PIC法による数値解析により,放電室下流の電子の輸送では,従来無視されてきた電子の慣性項が重要であることが示唆された.
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