研究課題/領域番号 |
17H04979
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
渡辺 健太郎 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任講師 (30523815)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | IR-LLO / 多重量子井戸 / 太陽電池 / エピタキシャルリフトオフ / レーザーリフトオフ / 化合物半導体 / 有機金属気相成長 / レーザー加工 |
研究実績の概要 |
本研究課題における目的は、レーザー光を用いた溶断過程において、半導体の種類における光の吸収率の差を利用した光吸収層の選択的溶解とデバイス層の分離である。 当該年度は、1.GaAs基板上に疑似格子整合成長したInGaAs/GaAsP多重量子井戸層に対する波長1064nmのパルスレーザーを用いた選択的アブレーション 2.InP基板上に格子整合成長したInGaAs層に対する選択的アブレーションについて実験的評価を実施した。 1.GaAs基板上に成長したInGaAs/GaAsP多重量子井戸層(MQW)は各層に生じる歪応力を補償しつつ成長を進めるためにGaAsよりも低い実効バンドギャップを持った層を高品質に形成することができる。本研究において、加工用レーザーとして広く普及している波長1064nmのYAG:Ndレーザーを用いてIR-LLOによる太陽電池デバイス層の分離を行うため、GaAs疑似デバイス層とMQW加工層からなる層構造をMOCVD法を用いてエピタキシャル成長した試料に対してレーザー光照射によるアブレーションを行ったところ、GaAs層を維持したままMQW層のみの溶解が可能であることが示された。 2.GaAs基板上に成長した場合と同様に、InP基板(バンドギャップ1.3 eV)上に成長したInGaAs層はバンドギャップ値が0.7eVであり、この層を選択的光吸収層として用いた場合、波長1064nmの赤外線に対する選択的吸収比率が大きくなることから、IR-LLO加工によるデバイス層の分離がより有効に形成されることが期待される。InP基板上に格子整合したInGaAs層の形成をMOCVD法を用いて行い、レーザー光照射によるアブレーション過程を観察したところ、InP層を維持したままInGaAs層の溶解が生じることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の目的である、レーザー光を用いた太陽電池デバイス層の分離加工に対して、多層構造中における光の選択的吸収とアブレーション(溶解離断)工程が強い光吸収を生じる任意の層において発生させ得ることが確認されたことで、光吸収層とデバイス層による分離加工の実現性が実証された。InGaAs/GaAsP MQW層とGaAs疑似デバイス層に対する光吸収の選択性はバンドギャップの差に基づいて生じると考えられるが、実現可能なMQW層のバンドギャップ値は1.2eV程度までである。これに対して、バンドギャップ1.3eVのInP基板上に格子整合成長で形成可能なInGaAsはバンドギャップ値が0.7eVであり、より大きい光吸収の差を見込むことが可能である。実際に、InP基板に対して格子整合InGaAs層の形成および、レーザーアブレーション実験から、InP基板を損なわずにInGaAs層のみの溶解を確認できたことから、この層を選択的吸収層として用いた場合にも同様にデバイス層の剥離工程が可能であることが示された。また、光吸収の選択性が高いことから剥離工程の加工性が高いことが予測される。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は選択的光吸収層と太陽電池デバイス層からなる試料の結晶成長を行い、デバイス層の分離実験を行う。前年度までにGaAs基板上にInGaAs/GaAsP MQW層を、InP基板上にInGaAs層を形成することで選択的光吸収層としてIR-LLO工程が可能であることが示されたため、この両者に対し、選択的光吸収層を介してPN構造に基づく太陽電池層を持つ試料を形成する。支持基板としてSi、または光学的に透明なサファイア基板にこれらの試料を常温接合法を用いて強固に接着したのち、エピタキシャル成長基板のGaAs、あるいはInP基板上から波長1064nmのパルスレーザー光を照射することで支持基板上へデバイス層を分離する工程について検証を行う。また、薄膜層へと分離したデバイス層に対して電極形成を行った後、太陽電池としての性能評価である、光照射下の電流-電圧特性及び、量子効率スペクトルの測定を実施する。この結果について解析を行うことで、IR-LLO工程が太陽電池デバイスの特性に与える影響について検討を実施する。
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