研究課題/領域番号 |
17H04980
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
尾崎 壽紀 関西学院大学, 理工学部, 講師 (20756663)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 超伝導材料 / 薄膜 / イオン照射 / ナノ構造 |
研究実績の概要 |
高効率エネルギー機能材料である超伝導材料は超伝導転移温度Tc以下で電気抵抗がゼロになる。また、臨界電流密度Jcまで電気抵抗ゼロで電流を流すことができる。そのため、超伝導材料技術は、低炭素社会実現のための中核技術になり得る。超伝導材料技術を用いたエネルギーシステムの多くは、磁場中で多くの電流を流す必要がある。そのためには、超伝導体内に侵入した量子化磁束線を“ピン止め”し、磁束の運動を抑える必要がある。しかしながら、欠陥を導入すると結晶格子が壊れるためTcが低下してしまう。そのため、Tcの低下を抑えつつJcを上昇させる欠陥をデザインすることは学術的な中心課題の一つであり、産業応用に向けて世界中で取り組まれている急務の課題である。これまで申請者らは、鉄系超伝導薄膜に軽い水素イオン(H+)を極めて低いエネルギー(190 keV)で、しかもアルミニウム箔を介して散乱させながら照射することで超伝導特性を大幅に向上することを見出した。本研究では、超伝導材料の高機能化に向けて、イオン照射前後の結晶格子や電子構造と超伝導特性の変化を明らかにすることにより低エネルギーイオン散乱照射技術を確立し、結晶欠陥などのナノ構造を制御することで超伝導特性を飛躍的に向上させる、超高効率エネルギー機能材料を創生することを目的としている。 平成29年度は、低エネルギーでの重イオン照射が鉄系超伝導体FeSe0.5Te0.5(FST)薄膜に及ぼす影響を調べた。具体的には、Auイオンを6 MeVで照射することで、低エネルギー重イオン照射と超伝導特性および形成される欠陥の関係を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
重いAuイオンを6 MeVという比較的低いエネルギーでFeSe0.5Te0.5(FST)薄膜に照射することで、低エネルギー重イオン照射と超伝導特性および形成される欠陥の関係を調べた。照射されたFST薄膜は照射前よりも0.5 KだけTcが低下したが、Jcは自己磁場下(0 T)で低下せず、10 K、9 T(B//c)でJcが70 %上昇した。また、Jc(4.2 K)の磁場角度依存性を調べると全角度領域で照射前よりもJcが向上していることがわかった。照射後のFST薄膜の断面TEM像からAuイオン照射によって10-15 nmサイズのクラスター状の欠陥が観察された。これらの結果から、低エネルギーの重イオン照射は等方的なピン止め点導入に有効であることがわかった。低エネルギー重イオン照射と超伝導特性および形成される欠陥の関係を明らかにできたため、達成度としてはおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、軽イオン乱照射による鉄系超伝導薄膜のTcとJcの更なる向上を目指して、軽イオンの照射密度や照射エネルギーがTcとJcに及ぼす影響を系統的に調べ、透過型電子顕微鏡(TEM)等による微細構造観察を行うことでイオン照射条件と超伝導特性および形成される結晶欠陥・格子歪みの関係を明らかにする。また、軽イオン照射技術の確立と産業応用を目指して、銅酸化物高温超伝導体であるYBa2Cu3Oy薄膜に軽イオン照射を行い、軽イオン照射技術が他の超伝導材料に与える影響を調べる。
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