研究実績の概要 |
アルツハイマー病等の神経変性疾患において、シナプスの喪失が疾患の初期段階であることが知られている。しかしヒト疾患の剖検脳や従来の哺乳類神経変性モデルでは、その脳回路の複雑さと寿命の長さが問題となり、特定の細胞間のシナプス破綻から始まる神経変性を経時的に可視化し定量できる実験が非常に困難だった。そのため、細胞間の健康を維持するコミュニケーション機構の存在を確認することができなかった。このような課題に対し私たちは、シナプスを可視化するマーカーを作製し、ショウジョウバエにおいて、環境の変化によるシナプス構造変化を発見した。本研究課題では、多様なシナプス変化の大量なサンプルの定量に対応するため、神経軸索上のシナプスの半自動定量化技術を樹立した(J.Vis.Exp., 2017)。これにより、初めて特定の神経細胞の変性とシナプスの喪失という可視化が難しい生理的な変化を定量的に解析することができるようになった。この独自の手法を発展させ、シナプスの喪失が神経変性の前に起きることを突き止め、その神経回路維持にはWNT経路が関与していることを発見した。また、これまでの一連のシナプス研究の成果により神経活動によってシナプス構造が機能的に変化する現象やメカニズムをまとめた総説を発表した(Neural Dev., 2018)。その他、本研究によって新たにショウジョウバエの個体の活動記録設備を樹立し、視覚神経軸索の変性を誘導する恒常的な光環境下のストレスにおける概日リズムの記載も行った(Sci. Rep., 2019)
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