研究課題/領域番号 |
17H04984
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
平野 恭敬 京都大学, 白眉センター, 特定准教授 (40580121)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 順行性神経標識 / ショウジョウバエ / 記憶 / 神経回路 |
研究実績の概要 |
本研究では、記憶に関わる特定の神経がシナプス接続する神経を、順行性に標識する手法を確立する。さらに標識したシナプス後神経の神経活動を人為的に操作することで、その神経ネットワークの機能解明を試みる。 細胞表面の受容体であるNotchは、隣接する細胞のDelta等のNotchリガンドと結合する。Deltaとの結合により、Notchはγセク レターゼによる切断をうけ、Notchの細胞内ドメインが遊離する。Notchの改変を行うことが可能で、細胞外ドメイン(受容部)をラクダ由 来の重鎖のみの特殊な抗体であるNanobody(コードする遺伝子は約800bp長)と置換し、さらに細胞内ドメインを転写因子Gal4 と置換した改変型Notchが報告された。これを活用し、GFPと結合する抗GFP Nanobody-Notch-Gal4を発現する細胞に、GFPを細胞表面に提示する細胞を隣接させると、GFP と抗GFP Nanobodyが結合することでNotchが切断され、Gal4依存的な蛍光タンパクの発現が誘導されることが示された。昨年度までに上記の手法を改変し、シナプス接続を検出するよう、in vitroで最適化を行ってきた。各ドメインを融合させたコンストラクトを構築し、全長タンパクの位置関係を模索しながら多種のコンストラクトの検討を行った。in vitroの脳初代培養神経を用い、改変型バキュロウィルスを活用することで遺伝子導入し、各コンストラクトの最適化を図った。さらに、Nanobody配列をランダムに変異を導入することで、さらに高感度の標識が可能になるコンストラクトを探索した。In vitroにおいてはこれまで提唱されたコンストラクトの10倍のSN比を示すものを得ることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定では、公開されていた改変型Notchで順行性神経標識が可能であると考え、研究を遂行していた。しかしながら、公開されていたものはバックグラウンドのノイズが高く、さらに最適化する必要があった。最適化をin vitroで検証する方法をいち早く立ち上げ、最適化することに成功したため、順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、昨年度までにin vitroで構築した改変型Notchについて、有力候補をin vivoで検証する。そのなかで最適化したコンストラクトを用い、いまだ知られていない記憶に用いられる神経回路を明らかにしていく。 脳機能研究ではこれまでに様々な手法が取り入れられ、神経回路や神経機能の解明に貢献してきた。一方で、記憶に代表されるような、限られた記憶神経が司る神経ネットワークを理解するためには、シナプス間結合のある神経のみを標識し、それらを操作する方法論の樹立が必要不可欠であるが、現行の方法論では遂行不可能であった。本研究のように、順行性神経標識法という新規手法を確立し、これまでには検証することができなかった記憶神経ネットワークを可視化、および操作することができれば、神経科学のブレークスルーとなることと期待する。
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