研究課題
本研究では、自発・巧緻運動に重要な皮質脊髄路を対象に、障害脳と健常脳、双方において神経回路が働く動作原理の全貌を明らかにすることを目指す。本年度はまずマウスをモデルとして、健常脳において機能を発揮している回路がどのような接続を持っているのかを明らかにすることを目指した。皮質脊髄路がどのような神経細胞種同士の接続により成り立っているのか、その接続様式を詳細に調べたところ、大脳皮質にある皮質脊髄路ニューロンにはいくつかのサブタイプがあることを発見した。解剖学的に複雑な回路を描写するために、各種の神経トレーサーを用いて神経回路を標識したところ、筋へ接続する細胞としない細胞の2種類の皮質脊髄路ニューロンが大脳皮質に存在することを見出した。これらのサブタイプが脊髄へどのように軸索を投射しているかを明らかにするため、順行性トレーサーを投与して標識したところ、各々、脊髄の別々の領域に軸索を投射することがわかった。次に、各皮質脊髄路と脊髄介在ニューロンがどのような接続様式を持つのかを調べるため、Cre レポーターマウスを使って脊髄介在ニューロンをラベルし、皮質脊髄路との接続を解剖学的に解析したところ、各々が違った脊髄介在ニューロンと接続していることがわかった。これらの接続は、ウィルストレーサーや電気生理学的な解析からも確かめられた。これらの結果から、健常脳において、巧緻運動を制御すると考えられている皮質脊髄路が、多様な内在回路から成り立っていることがわかった。
2: おおむね順調に進展している
本年度はまず、健常脳において機能を発揮している神経回路がどのような接続を持っているかを詳細に明らかにすることを目指したが、大脳皮質から脊髄へといたる皮質脊髄路の詳細な接続様式を解剖学的・電気生理学的に明らかにすることができたため、研究はおおむね順調に進展していると言える。
平成29年度に明らかにしたマウス健常脳における皮質脊髄路の内在回路が、巧緻運動のなかでどの機能要素に貢献するかを、運動テストにより明らかにし、各内在回路が運動中に働く動作原理を解明する。次に脳障害モデルとして、脳梗塞モデルの確立を目指す。確立された各脳梗塞部位モデルにおいて、どのような運動機能の障害や回復過程を経るかを、各種の運動テストにより明らかにする。さらに、梗塞後に皮質脊髄路がどのような再編様式を経るか、神経トレーサーを用いて探索し、再編様式を明らかにしていく。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
実験医学
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DOI: 10.7875/leading.author.6.e003
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