研究課題/領域番号 |
17H04985
|
研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
上野 将紀 新潟大学, 脳研究所, 教授 (40435631)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 皮質脊髄路 / 脳障害 / 神経回路 / 可塑性 / 再編 / 神経科学 / 脳神経疾患 |
研究実績の概要 |
本研究では、自発的、巧緻的な運動に重要とされる皮質脊髄路が、健常時と障害時において、どのように機能しはたらくのか、動作原理の全貌を明らかにすることを目指している。前年度の成果から、マウスの健常脳において、皮質脊髄路は単一の回路ではなく、多様な投射経路をもった内在回路から成り立っていることがわかった。本年度は、この皮質脊髄路の内在回路が、巧緻運動のなかでどのような機能要素に貢献するのか、解明することを目指した。まず、腕を伸ばして餌を取るという巧緻的な動作に対して、3次元的にキネマティック解析するシステムを構築した。大脳皮質の内側から頸髄の腹側へと投射する内在回路の脳領域や神経細胞種の活動を遮断あるいは除去すると、腕を伸ばすリーチ運動の距離や加速度が低下することがわかった。したがってこの回路は運動の出力に寄与すると考えられた。一方、大脳皮質の外側から頸髄の背側へ投射する内在回路を遮断あるいは除去すると、つかんだ餌をはなす運動に障害がみられた。この回路は、感覚に関わる脊髄ニューロンと接続していることと合わせ、運動中の感覚情報をトップダウンに制御すると考えられた。これらの成果から、皮質脊髄路の内在回路には、運動の出力や、感覚の制御など、異なる機能が備わっていることが示唆された。これらの成果をまとめ、Cell Rep誌に論文発表した。次の研究段階として、脳障害モデルの実験系の確立を行った。まず本モデルにおいて、巧緻運動が実際に障害され、その後一定程度回復することがわかった。また、障害後に残存した皮質脊髄路があらたに軸索を伸長することがわかった。これらの結果から、脳障害後に皮質脊髄路の回路が再編していることが示唆される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、健常脳において見出した皮質脊髄路の内在回路の機能を明らかにすることを目指したが、各内在回路を遮断する方法や運動機能の評価系を作りあげ、各内在回路を阻害した場合に起こる運動障害の性質を明らかにすることに成功した。次に、障害時の神経回路を調べる第一段階として、脳障害モデルを構築し、障害から逃れた皮質脊髄路が再編を起こすことを明らかにすることができた。以上のことから、研究はおおむね順調に進展しているといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
前年度までに明らかにしたマウス健常脳における皮質脊髄路の内在回路が、脳障害後に、どのようなパターンで再編するかを、遺伝子改変マウスや神経トレーサーを用いて探索し、再編様式をさらに詳細に明らかにしていく。また脳障害を受けたマウスで、どのような運動機能の障害や回復の過程が起こるかを、巧緻運動の評価系をさらに洗練させ明らかにする。また、回路の再編をおこすメカニズムを探索するための実験系を構築する。
|