研究課題
本年度は、昨年度の研究において樹立した小胞体・ミトコンドリア膜間領域(MAM)の破綻を可視化・定量化する培養細胞系(Nuro2a + pMAMtracker-Luc/Green)を用いて、家族性ALS原因遺伝子におけるMAMへの影響を検討した。その結果、検討した20種類の家族性ALS原因遺伝子のうち、半数をこえる12種類(TDP-43, TUBA4Aなど)でMAMの減少が認められ、7種類では変わらず、残り3種類では逆にMAMの増強が見られた。興味深いことに、MAMの増加が見られたALS原因遺伝子ではいずれも機能喪失(loss-of-function)による発症機序が想定されており、全体の3/4で病態におけるMAMの破綻が関与していることが考えられ、以上のことから、MAMの破綻はALSにおいて広く共通した病態である可能性が示唆された。特に、FUS、MATR3、VCPの各遺伝子については、野生型は正常なMAMの形成能を示す一方で、ALSを引き起こす変異体では特異的にMAMの減少が見られた。従って、これらの遺伝子においては、より直接的にMAMの破綻が病態と結びついている可能性が高いと考えられた。また、σ1受容体に人工改変ペルオキシダーゼ(APEX2)を融合して発現する系を構築し、これを用いてMAM近傍に局在する分子を特異的かつ網羅的に標識することが可能であることを確認した。次年度は、上記で同定された各ALS原因遺伝子がどのような分子機序でMAMの破綻を引き起こすのかを明らかにするため、この系を用いてMAMの破綻に関与する候補分子の同定を目指す計画である。
2: おおむね順調に進展している
本年度は研究計画にあったとおり、樹立したMAM破綻の定量化および可視化の系とALS原因遺伝子発現ライブラリーを用いて、MAMの破綻が多くのALS原因遺伝子で共通して引き起こされることを明らかに出来た。さらに、σ1受容体とAPEX2との融合タンパク質の発現系および、それを用いたMAMタンパク質の網羅的標識の系を樹立することによって、MAMの破綻に関与する候補分子同定のための準備を完了することができた。従って、概ね順調に進展しているものと考えられる。引き続き、MAM破綻の分子機序解明に向けて解析を進める計画である。
本年度は、さきに樹立したMAMに局在する分子の網羅的な標識の系を用いて、質量分析法によりMAMに局在してMAM破綻に関与すると考えられる候補分子の同定を目指す。候補分子が絞り込めた後、siRNAを用いたノックダウンとMAM破綻のスクリーニング系を組み合わせて、候補分子の中で実際にMAMの構造維持に重要な分子を明らかにする。また、ALS原因遺伝子には過剰発現によってMAMを増強する分子が存在することが明らかとなった。
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Biochimica et Biophysica Acta (BBA) - Molecular Basis of Disease
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