本年度は前年度に得られたσ1受容体によるMAM増加因子について、更なる検討を行い、ATAD3Aタンパク質がσ1受容体によるMAM増加に必須であることを見出した。また、同時にリボソーム関連タンパク質が多数検出されたことをきっかけにして、新規合成タンパク質がMAMの制御に影響している可能性を考えて検討した結果、MAMにおける新規合成タンパク質がストレス下においてユビキチンタンパク質の集積を引き起こすことを見出した。MAMにおけるユビキチン化タンパク質の集積は小胞体関連分解に重要な分子AMFRに依存しており、σ1受容体はAMFRをMAMに係留していた。ユビキチン化タンパク質の集積は、アダプター分子としてポリユビキチン鎖を認識するp62やTBK1をMAMへリクルートし、TBK1の局所的な濃度の上昇によるTBK1自己リン酸化による活性化の要因となっていた。σ1受容体を欠損させた場合、このようなMAMにおけるユビキチン化タンパク質の集積や、それに引き続いたTBK1の活性化は顕著に抑制された。さらに、以上のTBK1活性化メカニズムは細胞のストレス応答に重要なストレス顆粒の形成に関与しており、TBK1の活性化を抑制するとストレス顆粒の形成が遅延することが判明した。ストレス顆粒形成には、TBK1のオートファジーへの関与が必要であり、オートファジーの阻害によっても同様の形成遅延が観察された。ストレス顆粒形成の遅延は、細胞のストレス抵抗性を低下させて細胞死を増強したほか、マウスにおいても砒素投与を行うことでσ1受容体欠損マウス、すなわちストレス顆粒形成に障害のあるマウスにおいて運動機能障害が引き起こされることが明らかになった。以上の結果は、TBK1のMAMにおける新規活性化機序を明らかにする大変興味深い結果であり、今後、MAMを標的とした神経変性疾患の治療標的として重要であることが示唆された。
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