これまでに発がん過程における遺伝子やエピゲノムの変化を生体外で検証するために、第一段階として、ヒト重層上皮組織である皮膚、乳腺、前立腺、肺気管支、細気管支の上皮細胞を無血清培地化でRhoキナーゼ阻害剤とTGFβシグナル阻害剤を添加することで長期間培養可能な手技の構築を行った。さらに、ヒトパピローマウィルスのタンパク質であるE6E7を導入することで、細胞の不死化を行った。上記のすべての上皮細胞においてもE6E7の導入によって細胞が不死化され継代を重ねても安定的に培養することが可能になった。さらにmyc遺伝子の導入を行うことでRas遺伝子を導入した際に起きるOncogene-induced senescenceを防ぐことに成功した。これまでに、活性化型変異を有するKrasおよびHras遺伝子を肺気管支上皮細胞と細気管支上皮細胞に導入し、がん化の誘導効率が細胞ごとに異なることを明らかにしている。 さらに、特異的な遺伝子変異を持つ細胞株や、上記の方法でがん遺伝子を導入した細胞を用いて、遺伝子変異特異的に細胞を殺傷する薬剤の同定を試みている。これまでの結果として、Kras変異を持つがん細胞を選択的に殺傷する薬剤を1200以上の薬剤が含まれているライブラリーから同定した。それらはベンゾイミダゾール構造を持っている薬物群であり、それらとRas下流のタンパク質を阻害する分子標的薬の併用により、相乗的にKras変異を持つ肺がん細胞を殺傷することが可能なことも明らかにした。
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