研究課題/領域番号 |
17H04995
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
町田 幸大 兵庫県立大学, 工学研究科, 助教 (20553093)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | バイオテクノロジー / 脳神経疾患 / 生体分子 |
研究実績の概要 |
本年度は、①試験管内疾患モデルのベースとなる、ヒトの翻訳関連因子由来、再構成型タンパク質合成系の合成活性の向上と②再構成型タンパク質合成系への人工オルガネラ膜(リポソーム)の添加について研究を行ってきた。①に関しては、まず、再構成型タンパク質合成系に発現ベクターとして導入しているHCV-IRES Plasmidにおいて、転写産物のmRNA上のHCV-IRES配列に作用して、翻訳開始を促進するとの報告がある翻訳開始因子、eIF2とeIF3をそれぞれネイティブ体、リコンビナント体として精製する方法を確立した。精製したネイティブ体およびリコンビナント体のeIF2を再構成型タンパク質合成系に、系が含有するリボソームと等モルになるように添加すると系の合成活性が約1.5倍に上昇した。一方、eIF3に関しては、別のアッセイシステムにおいて活性体であることを確認したにも関わらず、ネイティブ体、リコンビナント体のどちらを系に添加しても合成活性の向上は観察されなかった。再構成型タンパク質合成系は、翻訳に必要な限られた因子のみで構築しているため、本合成系には、eIF3とHCV-IRESの相互作用を仲介する因子Xが存在しないと考えられた。更なる合成活性の向上を目指して、翻訳終結後のリボソームのリサイクルに関与するABCE1に着目し、ABCE1のリコンビナント体の発現、精製方法を確立した。精製したABCE1を系に添加すると合成活性が約1.8倍に上昇した。eIF2とABCE1を同時に等モル添加することで合成活性を約2倍に上昇させることに成功した。②に関しては、先行研究で報告があるような人工膜成分とpolyQ凝集体との相互作用は観察されなかった。これは天然のCAGリピート遺伝子を使用していなかったことに原因があると考えて研究計画の変更を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画として予定していた①ヒトの翻訳関連因子由来再構成型タンパク質合成系の合成活性の向上に関しては、eIF3の添加による活性上昇効果は見られなかったものの、eIF2の添加で約1.5倍、さらに予定はしていなかったが、新たな因子として調製したABCE1の添加により、既存の合成活性を約2倍に上昇させることに成功しており、一定の成果を上げていると言える。一方、②再構成型タンパク質合成系への人工オルガネラ膜(リポソーム)の添加については、先行研究にあるような人工膜成分とpolyQ凝集体との相互作用は観察されなかったが、その原因となる事項について考察し、研究計画の変更を行うことで、次年度以降に滞りなく研究が遂行できるよう工夫を行った。また、本研究のベースとなる再構成型タンパク質合成系の維持に必要な構成因子群の供給(翻訳関連因子群の調製)に関しては、個々の因子の発現方法や精製方法における問題点について、研究室に配属された学部生や大学院生と協力しながら実験を進める中で、少しずつ改善することができている。
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今後の研究の推進方策 |
ポリグルタミン:polyQをコードする遺伝子配列を、これまで使用していた、GACの間にCAAを含む不完全なCAGリピート配列(タンパク質としてはpolyQのみが合成される)から、完全なCAGリピート配列に変更することで、生体内で生じていることが明らかになってきたrepeat-associated non-ATG 翻訳(RAN翻訳)を試験管内で再現することに挑戦する。再構成型のタンパク質合成系の中で、CAGリピート配列からのRAN翻訳が生じれば、翻訳産物としてポリグルタミン:polyQ(CAGリピート)、ポリセリン:polyS(CAGリピートのAから翻訳が始まった場合、フレームが1つずれてAGCリピートになるためその産物)、ポリアラニン:polyA(CAGリピートのGから翻訳が始まった場合、フレームが2つずれてGCAリピートになるためその産物)の3つを検出できるはずである。これらの検出には、それぞれC末端側にフレームを調製した3種類のタグの導入を試みる。さらに、疑似的な細胞内環境として細胞骨格(アクチン線維)存在下でのpolyQ合成も検討する。
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