研究課題
H29年度は、まず研究に関連する様々な手続きを開始するととともに、宮崎大学においてMIG-seq解析を行うための基盤を整えた。遺伝子サンプルを使用するためのタイ、オーストラリア、イタリア、イスラエル、フレンチポリネシア、フィリピンとのABS手続きを開始した。フィリピン、イタリアとの間ではMoUの締結が出来、PICの申請を行うところである。イスラエル、タイでは地元手続きが煩雑でやや難航しており現在これらの手続きは進めている最中である。すでに集めているサンプルを用いてMIG-seqの集団ゲノム解析も徐々に進めた。オニヒトデおよびマンジュウヒトデでは、インド洋と太平洋の間に位置するコーラルトライアングルを中心とした海域で集団ゲノム解析を行った結果、インド洋北種と太平洋種が2次接触している海域において、2種の形態をしたヒトデが同所的に分布するにも関わらず、遺伝的に交雑した後がほとんどなく、なんらかの生殖前隔離(産卵期の違いなど)ないし、生殖後隔離(雑種の適応性の低さなど)で2種の自然交雑が限定されていることが分かった。一方、類似するミトコンドリア遺伝構造をもつマンジュウヒトデでは2種間が同所的に分布する海域で、2種の遺伝子が混在している結果が見られ、自然交雑が行われていることが示唆された。アオサンゴに関しては、本年度は西オーストラリアおよび、日本国内の群体形の少し異なる集団についてMIG-seq解析を行った。まず、褐虫藻ゲノムの排除のため、褐虫藻を含まない幼生を用いてアオサンゴのリファレンスゲノムを作成した。MIG-seq解析を西オーストラリア集団に対して行った結果、黒潮海域と類似するような遺伝的に異なる2系統が発見された。また国内のアオサンゴに関しては、群体形が異なるものについて、従来のマイクロサテライト解析では見えなかった遺伝的な違いをMIG-seq解析により発見した。
2: おおむね順調に進展している
最も時間のかかる海外の遺伝資源を使用するための地元および国際許可手続きは難航してはいるものの、少しずつ進んでいる。また、MIG-seq開発者である東北大学の全面的な協力を得てH29年度のはじめにMIG-seq解析を行うための基盤を一気に整えることが出来たため、手元にあるサンプルに関して一気に解析を進めることが出来た。結果としてもかなり順調に出ており、従来の少数遺伝子座を用いた遺伝子解析では見えなかった遺伝構造が明白に見えてきており、本研究の目的であるインド太平洋の種分化を明らかにしていく上で重要な情報を得ることが出来たため。
今後は、海外の遺伝資源を使用するための地元および国際許可手続きを進めるとともに、一部ふるいサンプルではどうしても解析が出来ないものがあったため、それらの遺伝サンプルから良好なDNAを抽出する方法等も検討する。またバイオインフォマティクスのスキルをあげることで、今後配列ベースの様々な解析を行っていく予定である。オニヒトデに関しては、2次接触の海域で解析できた個体数が少なかったため、さらに解析数を増やすことに専念する。また、北インド洋種のリファレンスが少ないため、ドイツの共同研究者から古いサンプルを譲りうけ、解析に加えていく予定である。アオヒトデに関しては、これからさらにサンプル数を増やし、ゲノム情報も増やしていくことで網状進化を行った際にどのような遺伝子が種の同一性を決定するための鍵になっていたのかについて研究を進めていく予定である。アオサンゴは、昨年度発見した西オーストラリアの2つの隠蔽系統とすでに見つかっている黒潮海域の3つの隠蔽系統との間の遺伝的な関連性を明らかにし、これらの隠蔽種はどこからは派生してきたのか、どのように系統地理学的に分布を拡大してきたのかを明らかにしていく予定である。また、黒潮海域において、集団ゲノム解析で発見した2種間では同所的にいても産卵期が約1ヶ月ずれていること、ストレス耐性や生物時計に関連する遺伝子に固定されたアリルが見つかったことから、産卵期、産卵中、産卵後に生物時計関連遺伝子がどのように発現・制御されているかについても今後明らかにしていく予定である。
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日本サンゴ礁学会誌
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Bulletin of Marine Science
巻: 93 ページ: 1009-1010
https://doi.org/10.5343/bms.2017.1032