研究課題
本年度は、オニヒトデとマンジュウヒトデについてインド洋・太平洋の海域においてゲノムDNAを抽出し、両者の遺伝構造を比較した。その結果、全体としてオニヒトデとマンジュウヒトデは非常に類似する遺伝構造を持っていることが分かり、氷河期に類似する種分化パターンを示したことがわかった。インド洋種と太平洋種が分岐した年代も焼く200万年前と共通しており、マンジュウヒトデの方がより分岐が若いことが分かった。これはより長い幼生分散期間が関係している可能性がある。さらに、インド洋と太平洋で遺伝構造の強さを比較したところ、インド洋側では地理的距離が太平洋側よりも短いにも関わらず大きな遺伝構造を持っており、太平洋側の方が遺伝構造が小さいことが両方の種において明らかになった。このことから、オニヒトデ、マンジュウヒトデともに幼生分散によるコネクティビティは海流の影響が大きく、インド洋よりも太平洋の方が海流による分散がおこりにくいことが分かった。これらの事実から、強い流れにさらされやすい太平洋側の方が幼生分散による2次的大量発生などの伝播が起きやすく注意が必要であることがわかった。一方アオサンゴでは、西オーストラリアで2種、黒潮系でさらに2種のアオサンゴので印系統が見つかり、西オーストラリアの種には、新たにHeliopora hiberianaの名を付けた。黒潮系では産卵期の異時性により生殖隔離のおきている2種について産卵期の推定を行うと同時に、MIG-seqにより従来の遺伝子マーカーでは見えなかった遺伝構造の違いを検出することに成功した。また、黒潮海域において、近年の温暖化により北上しているサンゴ類の遺伝構造を明らかにし、温帯域がサンゴの避難所として働く可能性を示した。今後さらにインド洋・太平洋のサンプルを加え、異所的種分化についての知見を深める予定である。
2: おおむね順調に進展している
対象種の生物について、順調にMTA,MOUなどの締結を行い、遺伝子サンプルを入手し、遺伝解析を進められている。そして実際に、MIG-seq法を用いた集団ゲノム解析により、対象種それぞれでこれまでに見えていなかった遺伝構造を次々と明らかにすることに成功している。特に、アオサンゴにおいては西オーストラリア、黒潮海域ともに、種分化の原因となっていると考えられる生殖時期の違いを生殖腺データなど、遺伝子以外のアプローチにより明らかにすることに成功しており、生殖隔離を裏付けるデータの取得にも成功している。サンゴ関係についてはScientidic Reportsに2報論文を掲載することができるなど、論文化についても徐々に進めているところである。
今後、シンガポール、モルジブ、GBRなどのサンプルをさらに追加し、当初の目的であるインド太平洋広域のサンプリングを達成する予定である。現在採集許可・輸出許可などの手続きを行っているところである。また古いサンプルについても適宜利用して解析に役立てる予定である。
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すべて 国際共同研究 (5件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
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