研究課題
本年度は、インド太平洋広域に分布するアオヒトデとゴマフヒトデのMIG-seq法を用いた集団遺伝解析を行った。リファレンスゲノムを利用して、マッピングを行い、クラスタリング解析を行ったところ、ミトコンドリア遺伝子では分かれなかったアオヒトデとゴマフヒトデは基本的に2種に綺麗に分かれた。これは、沖縄県瀬底島で同所的に分布するアオヒトデおよびゴマフヒトデでも同様の結果となり、少なくとも沖縄県の集団においてさらに、インド洋(南アフリカおよびタイ)のアオヒトデは太平洋のものと遺伝的にかなり大きく異なることが分かった。一方ゴマフヒトデは、太平洋とインド洋で遺伝的な違いは比較的小さかった。さらに、インド洋および中央太平洋の一部の海域ではアオヒトデからゴマフヒトデへの一方向的な遺伝子流動が見られた。これらのことから、アオヒトデとゴマフヒトデは、一度種分化した後、インド洋と太平洋の分断が起こった時期に、インド洋および太平洋それぞれの海域で2種間の交雑が起き、その後、インド洋と太平洋が繋がったのちも、生殖隔離が完全に確立された海域と近年もしくは現在までの間に未だアオヒトデからゴマフヒトデへの遺伝子流動が起こり得る海域が存在する可能性が考えられた。サンゴ類では、アオサンゴにおいて、インド洋太平洋の広域を対象とした系統地理解析により、3つの大きなグループに分かれることが分かった。これら3つのグループの分布は大まかにインド洋側、インド+太平洋両方、太平洋側の3つに分かれ、2グループが同所的に分布する海域では生殖時期の違いによる異時的な生殖隔離のメカニズムが存在することを明らかにした。さらに各グループ内には、いくつかの遺伝的に大きく異なる系統が少なく存在することが分かった。スラウェシ島東南に位置するハルオレオ大学の水産学部と学部間協定を結び、サンプリングと共同研究のための基盤を整えた。
2: おおむね順調に進展している
アオヒトデ・ゴマフヒトデ・アオサンゴに関してはインド洋・太平洋の広域にわたる解析を行うことに成功し、ゲノムワイドにMIG-seqを行うことで従来は見えなかったインド・太平洋における種分化について考察することが出来た。また、インド洋・太平洋の中心に位置するインドネシアとの共同研究の基盤を作ることが出来、これまでに生物多様性の最も高い海域の一つでありながら、サンゴ礁生物の遺伝子解析が全く行われたことのない海域で調査を行う準備を進めることが出来たから。
今後、アオサンゴについては、解析対象海域を広げるとともに、今回発見されたサブクレード間の生理・生態的な違いについて調べていく予定である。具体的には、細胞中の共生褐虫藻数の違いや、共同研究者の協力のもと、石灰化速度の違いなども調べる。また、リージョナルな幼生分散に関しても、個体の位置情報を得ているサンプルを用いて、野外観測データと多遺伝子座を用いた自己空間解析の結果を比較することで、解明していく予定である。また他のサンゴ類(Acropora属、Corallium属)に関しても、種の境界および幼生分散範囲を推定していく予定である。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 3件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件)
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