研究課題
前年度までにCXCR4のメチオニンを選択的に安定同位体標識し、核磁気共鳴(NMR)法で解析する条件を確立したが、CXCR4の膜貫通領域のメチオニンは3残基と少なく、分子全体の構造変化を解析するには不十分である。そこで、CXCR4の活性化に関わる構造変化を解析するために、膜貫通領域の様々な部位にメチオニン残基を導入した変異体を多数構築した。これらの変異体のうち、十分な収量で得られ、かつ、リガンド依存的なシグナル伝達活性が確認できたものについて、メチオニンを選択的に安定同位体標識した試料を作成し、NMRスペクトルを測定した。その結果、様々な部位のメチオニン残基由来のシグナルが、低分子量アンタゴニストが結合した状態と、アゴニストであるケモカインCXCL12が結合した状態で、異なる化学シフトを示した。以上のことから、CXCL12の結合により、CXCR4の膜貫通領域の広い範囲にわたって、その構造が変化することで、CXCR4が活性化し、シグナルが細胞内へと伝達されると考察した。さらに、同じGPCRに属するが、リガンドの性質が大きく異なるCXCR4とオピオイド受容体で、構造上対応する部位のメチオニン残基について、リガンド依存的な化学シフト変化を比較した。その結果、薬効度依存的な化学シフト変化の方向が両者で一致していた。このことは、少なくともこのメチオニン残基の周辺領域について、活性化にともなう構造変化が、GPCR一般に共通していることを示唆するものである。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画では、平成30年度は、様々な部位のメチオニン残基のNMRシグナルを観測することで、同じGPCRに属するが、リガンドの性質が大きく異なるケモカイン受容体とオピオイド受容体の活性化機構の共通点や差異を見出すことを目指していた。解析の結果、両者で同様の化学シフト変化が観測され、共通の活性化機構が明らかになったことから、当初の計画通り順調に進展していると判断した。
これまでの研究結果から、リガンドの性質が大きく異なるGPCRである、ケモカイン受容体とオピオイド受容体で、膜貫通領域の構造変化に共通の特徴があることが明らかになった。一方で、オピオイド受容体は膜貫通領域のみでリガンドと結合するのに対し、ケモカイン受容体は細胞外領域と膜貫通領域の2箇所でリガンドと相互作用する。このようなリガンドの特徴の違いが、どのように共通の膜貫通領域の構造変化に収れんされるかは不明である。そこで、ケモカイン受容体の細胞外領域と膜貫通領域の役割に着目し、その活性化機構を詳細に解明することを目指す。また、これまでに明らかにしたGPCRの構造変化が、どのようにGタンパク質の活性化に関わるかについても不明である。そこで、Gタンパク質またはその模倣分子が結合した状態のGPCRの構造解析についても進める。
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Nature Reviews Drug Discovery
巻: 18 ページ: 59~82
10.1038/nrd.2018.180
http://ishimada.f.u-tokyo.ac.jp/public_html/index_j.html