昨年度までに、核磁気共鳴(NMR)法を用いたケモカイン受容体の解析を進め、膜貫通領域の動的構造が活性化に関与していることを見出していた。今年度は、活性化に重要な各モチーフの構造変化を含めて、動的構造の変化をより詳細に可視化することを目指し、ケモカイン受容体の様々な位置にメチオニン残基をNMRプローブとして導入した。NMR解析を進めた結果、活性化にともなう各モチーフの構造変化を検出することに成功した。 また、ケモカイン受容体のシグナルバイアスについて解析することを目指し、各シグナル伝達経路の活性化を定量的に評価するためのアッセイを構築した。ケモカイン受容体をナノディスクの脂質二重膜に再構成する方法を確立した上で、ケモカイン受容体を介したGタンパク質のGDP-GTP交換反応の促進、およびGタンパク質共役型受容体(GPCR)キナーゼ依存的なケモカイン受容体のリン酸化反応を検出した。 さらに、GPCRのアロステリックな活性化機構を解明するため、GPCRにアロステリックリガンドが結合した状態の解析に取り組んだ。GPCRを単離・精製し、ナノディスクに再構成した試料を用いて、作動薬のみが結合した状態と、アロステリックリガンドと作動薬が両方結合した状態で、シグナル伝達活性を比較した。その結果、アロステリックリガンドによるシグナル伝達活性の顕著な増強を確認した。これにより、GPCRへのアロステリックリガンドの結合と、それにともなう、シグナル伝達への直接的な影響を定量的に評価することに成功した。
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