研究課題/領域番号 |
17H05000
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
西澤 知宏 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (80599077)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | GPCR / X線結晶構造解析 |
研究実績の概要 |
エンドセリン受容体におけるペプチド性のリガンドにおける活性化機構を明らかにするため、ETB受容体特異的なペプチドアゴニストであるエンドセリン-3、およびIRL1620とETB受容体の複合体構造の結晶構造解析を行い、それぞれ2.0Å、2.7Å分解能で明らかにすることに成功した。エンドセリン-3の結晶構造はこれまでに報告された作動薬結合型のGPCRの中で最も高く、水素結合ネットワーク音変化を含めて、その詳細の構造変化を明らかにすることができた。中でも、ほかのクラスAに属するGPCRの多くで保存されているナトリウムイオン結合サイトは、エンドセリン受容体ではわずかに変化しており、ナトリウムの代わりに水分子が結合し、不活性化型の受容体構造を安定化していることが分かった。 一方で、IRL1620はエンドセリンペプチドの一部を改変したペプチド性アゴニストであるが、その活性化機構に関してはあまり調べられてこなかった。TGF-αのsheddingアッセイにより、エンドセリン-3とIRL1620の活性化レベルの詳細を調べたところ、エンドセリン-3は他のエンドセリンペプチドと同様のレベルまで活性化できるのに対して、IRL1620による受容体の活性化レベルはやや低く、部分作動薬(partial agonist)としてはたらくことがわかった。 次にこれらの結晶構造を比較したところ、IRL1620の結合した構造では、前述の活性化に必要な水素結合ネットワークの変化が部分的で、一部分は不活性型の特徴を保持していることがわかった。したがって、このような違いがIRL1620の活性化レベルの低下につながっていることが分かった。これらの成果はNature Communications誌に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初予定されていたエンドセリン-3だけでなく、環状構造を持たないペプチドアナログであるIRL1620の構造解析にも成功した。特にエンドセリン-3との複合体の結晶構造は2.0 Åという、これまで報告された作動薬結合型のGPCR構造の中で最も高い分解能であり、受容体内部の詳細の水素結合の変化に関する新たな知見を得ることができた。 また、生化学的な実験からIRL1620が部分作動薬であることを明らかにした。IRL1620は、臨床応用への実験が進められてはいるものの、生体内においてはその薬効が十分ではないことから頓挫していたが、今回の成果は、新たな臨床応用への適用可能性を示すものである。
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今後の研究の推進方策 |
本研究申請時に予定していた構造解析に関しては、その多くを実現することができた。引き続き、エンドセリン受容体、LPA受容体に関しては他のリガンドとの結晶構造解析を行うのに加えて、ほかのクラスA、あるいはクラスBに属するGPCRに関しても構造解析を行うことで、より幅の広い知見を明らかにし、GPCRにおけるリガンド選択性、活性化機構を明らかにすることを目指す。
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