研究実績の概要 |
本年度は以下の主要テーマについて研究を進めた。 1.ダイニン-NuMA複合体の形成-乖離機構の生化学的解析 2.ダイニン-NuMA複合体の紡錘体極収束機能メカニズムの解析 3.染色体派生Ran-GTP濃度勾配による紡錘体形成因子の制御 4.初期胚モデルとしてのメダカ実験系のセットアップ
上記1.ではNuMAを分裂期と間期の細胞抽出液から免疫沈降し、共沈タンパク質とNuMA, dynein, dynactinの修飾部位を質量分析により解析した。上記2.に関しては、新たにdynein結合因子であるLIS1, Nde1/Ndel1のデグロン細胞を樹立し、分裂期中期特異的に分解誘導を行なった。そして、これらのdynein結合因子はdyneinとは似ているが、NuMAとは異なる表現型を示すことを見出した。上記3.に関しては、NuMA, HURPに加えて、TPX2, HSETについても解析を進めた。そして、これまでの概念とは異なり、Ran-GTPはNuMA, TPX2の紡錘体極機能には必須ではなく、染色体近傍でのHURP, HSETの局在制御に機能することを見出した。この成果は再度論文にまとめ、bioRxivと雑誌社に投稿した(Tsuchiya et al., https://www.biorxiv.org/content/10.1101/473538v3。2020年6月現在リバイス中)。上記4.に関しては、新たに集合水槽を購入し、メダカ標準系統2種類を自身で管理・飼育し、受精卵を採取する技術を身につけた。また卵を回収し、次世代のメダカを育てることや、受精卵へのマイクロインジェクション系を樹立することにも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記1.に関しては、沖縄科学技術大学院大学との共同研究を進め、質量分析機で解析を行なった。今後さらに精製条件や回収量を改善し、修飾部位の同定や、場合によってはdynein-dynactin-NuMA複合体の構造解析を進める。2.に関しては、新規に開発した分裂期中期特異的タンパク分解系を、dynein, dynactin, NuMA, LIS1, Nde1という5種類のdynein結合因子に応用し、NuMAはその他とは異なる表現型を示すことを見出している。これらの結果から、dyneinはNuMAを含む、あるいは含まない、2種類の複合体として紡錘体極で極収束に関与しているとのモデルを考えている。またdyneinからNuMAの乖離制御には、これまでの細胞表層のdynein-NuMA複合体と同様に、紡錘体極に局在するPlk1が関与しているものと考えている。3.に関しては、オーキシン誘導デグロンを用いて、分裂期前中期、あるいは中期で特異的にRan-GEF(RCC1)を分解することに成功し、ヒトの体細胞分裂においては、これまでのモデルとは異なり、NuMAはRCC1がなくても正常に機能することを見出した。また、その他の紡錘体形成因子への影響も調べた結果、TPX2も含めて、染色体から離れた部位での制御にはRan-GTPの関与はほとんどないことを明らかにした。一方、染色体近傍では、従来のモデル通りにHURPやHSETなどは制御されることを確認した。4.に関しては、集合水槽を一台購入し、標準系統のOK-Cab, d-rR/TOKYOの2種類のメダカを飼育し、受精卵を回収後、成体まで育てることに成功した。また実体顕微鏡や、microinjectionシステムを整備し、回収した受精卵にCas9 mRNA, sgRNAやdsDNAをインジェクションし、ゲノム編集をするための予備実験を進めた。
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今後の研究の推進方策 |
まず上記3のプロジェクトに関する論文の査読に対応し、論文を公表する。その後は、Ran-GTPがいかに細胞表層のLGNタンパク質の局在を空間的に制御するのか、デグロン細胞株や相互作用因子解析を通じて検討を進める。上記1に関しては、dynein-dynactin-NuMA (DDN)複合体、あるいはDDN複合体とLGN- Gaiを含む巨大複合体を精製し、その修飾状況を明らかにする。複合体形成に必須な修飾を同定し、複合体の試験管内再構成も進める。また電子顕微鏡を用いて、細胞から精製した複合体や、試験管内再構成した複合体の形を可視化する。2に関しては、それぞれの条件で追試を行い、論文にまとめる。紡錘体極における微小管の収束状態や、極におけるdynein, NuMAの局在をより詳細に検討する目的で、電子顕微鏡を用いた解析も並行して進める。質量分析、構造解析や電子顕微鏡解析は、沖縄科学技術大学院大学の研究室や施設と共同研究として進める。4.に関しては、まずはdyneinを可視化するため dynein heavy chainのC末にFALG-mCloverをノックインしたtransgenic Medakaを作成する。具体的にはCRISPR/Cas9, sgRNAとdsDNAを用いた方法を用いる。Knock-in Medakaの作成に成功すれば、初期分裂における局在動態をライブイメージングで解析すると共に、免疫共沈産物を質量分析で同定し、初期分裂におけるdynein結合因子を同定する。またオーキシン誘導デグロンや光操作タグも同様にノックインし、dyneinやその他、初期分裂の対称性制御に機能する可能性のある遺伝子の機能を解析する。
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