研究課題/領域番号 |
17H05003
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
鳥山 道則 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 助教 (90457151)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 一次繊毛 / 神経成長因子 / オメガ3脂肪酸 / NFAT / プロスタグランジンE2 |
研究実績の概要 |
一次繊毛は殆どの細胞が有する細胞膜から突出した小器官であり、細胞外シグナルの受容と細胞内への伝達を司る「アンテナ」として働く。一次繊毛によるシグナルの受容は、遺伝子発現の制御を通じ組織形成、恒常性の維持など正常な生体機能に必須である。神経細胞も一次繊毛を形成することが解っているが、その形成に関わる分子機構および生理的意義については不明な点が多く残されている。本研究では、神経細胞における一次繊毛の形成機構の解析および神経細胞における一次繊毛の役割の解明を目標に研究を進めた。 本年度は、神経細胞に一次繊毛形成を制御する細胞外分子の同定および一次繊毛形成に必要とされる細胞内のシグナル伝達機構の解析を進めた。その結果、神経成長因子(NGF, BDNF, NT-3)、軸索ガイダンス分子であるNetrin-1、さらにDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)などのオメガ3脂肪酸が、神経細胞の一次繊毛形成を促進することを見出した。これら分子の刺激により、神経細胞内のカルシウム濃度の上昇と、脱リン酸化酵素カルシニューリンの活性化、さらに転写因子NFAT(Nuclear factor of activated T-cells)の活性化が一次繊毛形成に必要とされることを見出した。さらに、転写因子NFATの標的遺伝子の一つであるcox-2(シクロオキシゲナーゼ2)の発現上昇とプロスタグランジンE2の産生と細胞内cAMPの上昇が一次繊毛の伸長に必要なことが解った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、これまで不明であった神経細胞における一次繊毛の形成機構の解析を目標に、一次繊毛形成を促進する細胞外分子および細胞内におけるシグナル伝達機構の解析を行った。その結果、神経成長因子のみならずDHAやEPAなどの不飽和脂肪酸も神経細胞の一次繊毛形成を促進する新たな生理機能を見出した。更に、一次繊毛形成に必要とされる細胞内のシグナル伝達機構の一端を明らかできたため、研究は順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の方策として、神経成長因子やオメガ3脂肪酸の刺激に応答し、伸長した一次繊毛のシグナル受容能の解析を中心の研究を進め、神経細胞における一次繊毛の生理機能を明らかにする。具体的には以下に示す解析を行う。 1)一次繊毛の伸長による細胞外シグナルの受容能の解析 Shh(ソニックヘッジホッグ)のシグナル伝達には、一次繊毛の機能が必要とされることが解っている。そこで、一次繊毛の長さの違いによる、Shhの受容と下流シグナルの活性化を培養神経細胞を用いて解析を行う。方法として、一次繊毛形成を促進する神経成長因子や不飽和脂肪酸で神経細胞を前処理し、一次繊毛を伸長させる。その後Shhで神経細胞を刺激し、定量的RT-PCR法やWestern blot法によりShhの下流で発現量が変動する遺伝子群(Gli1,Ptch1など)の発現量を解析する。 2)新規一次繊毛構成因子の同定と機能解析 神経細胞の一次繊毛に局在する分子群の全容は未だ明らかではない。そこで、APEX法を用いて神経細胞の一次繊毛に局在する分子の網羅的同定を行う。同定されて分子については、免疫染色法を用いた解析から一次繊毛への局在を解析する。特に細胞外シグナルの受容と伝達に関わる受容体分子を中心に解析を行い、アゴニストやアンタゴニストを用いた実験系から候補分子を活性化あるいは不活性化した場合の細胞応答を中心に解析を行う。
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