一次繊毛は細胞膜から突出する突起状の小器官であり、細胞外からのシグナルの受容と細胞内への伝達を行う「アンテナ」のような機能を持つ。一次繊毛を介した細胞外からのシグナルの受容は、遺伝子発現の制御を経て組織形成、恒常性の維持など正常な生体機能に必須である。神経細胞も他の細胞と同様に一次繊毛を形成することがわかっているものの、その形成に関わる分子機構および生理的意義は不明な点が多い。本研究では、神経細胞における一次繊毛の形成機構の解析および神経細胞における一次繊毛の役割の解明を目標に研究を進めた。まず、神経細胞の一次繊毛の形成を促進する細胞外分子として、神経成長因子であるBDNF、NT-3や不飽和脂肪酸であるドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)が培養神経細胞の一次繊毛の形成に促進的に働くことを見出した。これら分子による一次繊毛の形成促進の分子機構として、細胞内カルシウム濃度上昇による転写因子NFAT(Nuclear factor of activated T-cells)の活性化に伴う標的遺伝子の発現制御が必要であることも解った。また、動物個体を用いたin vivoの実験も行い、妊娠マウスへのドコサヘキサエン酸の投与が、胎仔マウスの大脳皮質を構成する神経細胞の一次繊毛の形成を促進し、一次繊毛の長さが有意に長くなることも見出した。加えて一次繊毛により受容される新たな細胞外分子の同定を目的に、一次繊毛に特異的に局在化する分子群の同定も進めた。その結果、アデノシン受容体などのいくつかのGタンパク質共役型受容体が新たに一次繊毛の細胞膜に局在することを発見した。同定された一次繊毛局在分子のノックダウンが神経回路網形成に与える影響について今後解析を進める予定である。
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