本研究では、各中胚葉領域への細胞の分化傾向を解析するため、前方、後方、内側、外側の全ての中胚葉細胞が含まれるようにヒトiPS細胞を分化誘導する必要がある。まずは、申請者の開発した中胚葉誘導系が4つの領域をバランス良く含むように、分化誘導プロトコルを最適化した。ヒトiPS細胞が分化開始9日目に中胚葉に分化した段階でqRT-PCR及び免疫染色を行い、それぞれの領域のマーカー遺伝子(前方:GATA3、後方:HOXD11、内側:PAX3、外側:FOXF1)の発現を確認した。結果、全ての領域の中胚葉細胞が発生していることを確認した。 次に、この細胞群を対象に細胞乖離の条件検討を行い、全ての細胞を1細胞にまで乖離しつつ、死細胞の割合が最小となる乖離条件を確立した。その後、分化誘導後3日目から9日目まで、各日約3000細胞細を対象に、1細胞トランスクリプトーム解析を行った。結果、ヒトiPS細胞が原始線条を経由して沿軸中胚葉、中間中胚葉、側板中胚葉、神経堤細胞へと分化していく経緯を、遺伝子発現プロファイルを元に可視化することに成功し、その詳細なタイミングを明らかにした。更に、ヒトiPS細胞から各中胚葉細胞へと運命決定する際に働くシグナル伝達因子を、リガンドレセプター解析により推定した。例えば、解析によると側板中胚葉はBMPシグナルが強く働いていたが、これはモデル動物の胎仔を用いた先行研究の報告と一致し、本研究の実験系からは信頼できる解析結果を得られていると考えられる。実際に、BMP4を分化誘導中の特定のタイミングで細胞に作用させることで、ヒトiPS細胞から側板中胚葉を選択的に誘導することに成功した。 本研究により、ヒトiPS細胞からの中胚葉分化誘導系を1細胞レベルで解析し、ヒト中胚葉発生における細胞運命決定メカニズムを明らかにすることができた。
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