研究課題/領域番号 |
17H05007
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
豊田 正嗣 埼玉大学, 研究機構, 准教授 (90714402)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 重力感受 / 遠心顕微鏡 / カルシウム |
研究実績の概要 |
概して植物は重力を感受して、根を地中深く、茎を空へ向かって屈曲させる。この重力屈性反応は、200年以上研究されているが、未だに植物がどのように重力を感受するのか明らかになっていない。その最大の理由は、重力という機械的刺激を細胞内シグナルに変換する分子実体、すなわち植物の重力センサーが解明されていないからである。本研究では、新しい遠心蛍光顕微鏡を開発し、植物の重力センサーの解明に挑む。さらに、レーザーを使ってオルガネラ(アミロプラスト)を捕捉する”光ピンセット”技術や、伸展活性化(SA)チャネルを阻害するクモ毒”GsMTx-4”を応用することで、植物の重力感受機構の全体像を明らかにする。 今年度は、レーザー工学を専門とする吉川准教授(埼玉大学)のサポートを得て、光ピンセットを用いたアミロプラストの遠隔操作実験が大きく進展した。光ピンセット用YAGレーザーを共焦点レーザー顕微鏡(Nikon社)に導入し、アミロプラストの捕捉・遠隔操作しながら、高い時空間分解能で蛍光像を高速に撮影できるようになった。この光ピンセット・共焦点レーザー顕微鏡システムを用いることで「重力感受の初期過程であるアミロプラストの物理的な変位が、どのようなプロセスを経て、植物ホルモンであるオーキシンの極性輸送につながるのか」という長年の謎に対する大胆な仮説を打ち立てることにつながった。また、カルシウムシグナルを広視野・高感度で可視化するためのイメージング系も完成し、重力と同じ機械的刺激の1つである接触や傷害に対する植物の応答をリアルタイムで観察できるようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
共焦点レーザー顕微鏡に光ピンセット用YAGレーザーを導入し、植物のオルガネラであるデンプンが蓄積したアミロプラストを遠隔操作しながら、GFPや自家蛍光(赤色)などの蛍光観察が可能となった。このシステムを用いて、花茎・内皮細胞や根・コルメラ細胞内に局在しているオーキシン排出タンパク質と考えられているPIN-GFPの挙動を観察した。非常に興味深いことに、PINタンパク質の蛍光はアミロプラストの(捕捉)移動に対して高い時空間的相関をもって運動していることがわかった。この結果は、アミロプラストの物理的変位とオーキシン輸送の関係、すなわち約100年前に提唱されたデンプン平衡石仮説とCholodny-Went modelをつなぐ重要な発見である可能性が高い。現在、重力を感受できない変異体を用いて同様の実験を行っており、長年の謎に対する1つの解を与えたいと考えている。 カルシウムイメージングに関しても、いくつかの進展があった。重力屈性は器官レベルで起こる応答であるが、これまでcmオーダーのスケールでカルシウムシグナルをリアルタイムで計測できるイメージングシステムはなかった。この状況を打破するために、高感度かつ広視野の蛍光顕微鏡を構築し、機械的刺激の1つである物理的な接触や傷害に対するカルシウムシグナルを個体・器官レベルで可視化することに成功した。これらの結果を論文として発表し、世界中の新聞やメディアなどで取り上げられた。
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今後の研究の推進方策 |
システムのセットアップおよび得られた結果としては順調に進んでおり、本プロジェクトの根幹を成す重要なデータが得られつつある。研究計画書に記載されている通り実験を継続していく予定である。来年度は最終年度であることからも、様々な生物物理学的手法を用いて得られた結果を統合し、植物の重力感知から植物ホルモンの輸送までの一連の重力感受プロセスの全体像を解明したい。
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