多くの植物は重力を感受して、根を地中深く、茎を空へ向かって屈曲させる。この重力屈性反応は、200年以上も研究されているが、未だに植物がどのように重力を感受するのか明らかになっていない。その最大の理由は、重力という機械的刺激を細胞内シグナルに変換する分子実体、すなわち植物の重力センサーが解明されていないからである。本研究では、新しい遠心蛍光顕微鏡を用いて、植物の重力センサー(重力感受機構)の解明に挑む。さらに、レーザーを使ってオルガネラ(アミロプラスト)を捕捉する”光ピンセット”技術や、伸展活性化(SA)チャネルを阻害するクモ毒”GsMTx-4”を応用することで、重力感受から植物ホルモンの輸送に至るまでの重力感受機構の全体像を明らかにする。 今年度は、光ピンセット、広視野・高感度イメージング系、遠心蛍光顕微鏡などの新しい技術とGsMTx-4を組み合わせることで、新たな薬理学・生理学的なデータを得た。SAチャネルを特異的に阻害するペプチドであるGsMTx-4を含むクモ毒をシロイヌナズナ花茎に投与したところ、重力屈性が著しく抑制されることがわかった。さらにこのクモ毒は、シロイヌナズナの花粉管の伸長および細胞内のカルシウムオシレーション(振動)を抑制することがわかった。一方で、シロイヌナズナの花茎の重力感受細胞(内皮細胞)において、光ピンセットを用いてアミロプラストを遠隔操作し、疑似重力刺激を与えたところ、カルシウム非依存的にオーキシン輸送体の細胞内移動が観察された。これらの結果は、シロイヌナズナの地上部の重力屈性には、SAチャネル/カルシウムシグナル依存的なプロセスと、アミロプラストの物理的な変位(細胞内動態)依存的なプロセスが存在することを示唆している。
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