研究課題/領域番号 |
17H05008
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
近藤 侑貴 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (70733575)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 維管束 / 細胞分化 / 幹細胞 / 時空間制御 / 多能性 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、維管束幹細胞の①時間的制御、②空間的制御、③(それら情報を統合した)マスター転写因子による制御の3点に着目をし、我々が開発した維管束分化誘導系VISUALを用いて幹細胞制御機構の解明を目指した。 ①の時間的制御に関して、道管・篩管マーカーの多色ルシフェラーゼ植物を作成し、新たに開発した発光顕微鏡そしてルミノメーターを活用し、VISUAL分化誘導をしながらタイムラプス撮影できる系を立ち上げた。その結果、予想に反し、道管・篩管分化の特異性においては、特に時間的な要因は見当たらず、逆に空間的な要因が重要であることが見出された。 ②の空間的制御においては、VISUALにおける深部イメージングの結果、位置情報が維管束細胞の分化運命の決定に関わることが統計学的に示唆された。そこで遺伝学的に位置情報の重要性を確かめるため、位置情報を攪乱するための様々な変異体を作出し、維管束マーカーをもつ植物に導入した。予想外な結果として、植物ホルモン処理の実験から、篩管のみを優先的に作りだすことのできるVISUAL-PHが見つかり、分化方向の人為的操作が新たに可能となった。 ③の幹細胞分化マスター因子のBES1ファミリーの機能解析においては、順遺伝学のアプローチからbes1サプレッサー候補を単離・整備し、計10系統を得た。親株とのバッククロスを進め、分化回復の表現型を示したF2集団からDNAを抽出し、NGS解析をおこない、候補遺伝子領域の絞り込みを進めた。また、ゲノム編集技術を用いてBES1ファミリーメンバーの多重変異体作成を進め、様々な組み合わせの2重変異体そして3重変異体を得た。一部のメンバーはVISUALにおいて、BES1と冗長的に働くことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
幹細胞運命の時空間的な制御機構の解析に関しては、おおむね順調に進展している。しかしながら分化のマスター転写因子BES1の機能解析については、ドミナントの変異体が多く、順遺伝学の原因遺伝子同定が予想以上に難航している。一方で、思わぬ形でBES1の機能を抑圧する変異体を見つけ出すことができたので、そこを突破口にBES1の下流経路を明らかにできると期待される。また、幹細胞運命を変化させることのできるホルモンの単離に成功したことで、新しい切り口から幹細胞多能制御機構にせまることが可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
今回得られたデータから、時間的な要因はさほど分化運命には影響がなく、むしろ空間的な要因が分化運命に関わることが示唆された。今後は、空間的な要因についての解析にフォーカスをして研究を進めていく。具体的には、細胞配置のパターンが攪乱される変異体を使用してVISUAL誘導をおこない、維管束幹細胞の分化運命にどのような影響がみられるのかを詳細に解析していく。 また、BES1ファミリー遺伝子の幹細胞分化における役割については、引き続きサプレッサー候補遺伝子の領域を狭める他、新たに単離された重要因子についても機能解析を進めていく。
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