研究課題/領域番号 |
17H05009
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
岡本 昌憲 宇都宮大学, バイオサイエンス教育研究センター, 助教 (50455333)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アブシジン酸 / 植物ホルモン / ケミカルバイオロジー / 受容体 / 乾燥 / ストレス応答 |
研究実績の概要 |
植物ホルモンであるアブシジン酸(ABA)の生理作用は植物種間に多数存在する PYR/PYLと呼ばれる受容体を介して、時空間的に様々な下流因子を介して引き起こされる。ストレス応答に関わるABAシグナル伝達因子の多くが明らかにされたが、ABA がどのように植物の成長を制御しているか明らかになっていない。本研究では、特定のABA受容体だけに結合し、特異的な組織に作用する新奇バイオプローブを用いて、植物の生長制御に関わる ABA のシグナル伝達機構の解明を目的としている。 ABA受容体は、生化学的な解析から二量体型 (サブクラスIII)と単量体型 (サブクラスIとII)に分類される。それぞれの受容体の機能を明らかにするために、T-DNAなどにより変異株の作成を進めてきたが、現存するT-DNA変異株では全ての受容体変異株を網羅できていなかった。そこで、ゲノム編集により、全ての受容体変異株の作成を進めた。設計したRNAガイドがそれぞれの受容体を切断することを確かめ、現在、サブクラスI、II、IIIの多重変異体の作成と全ての受容体を破壊した多重変異体の作成を進めている。 単量体型に選択的に作用するASV化合物を用いて、ASV非感受性変異株の原因遺伝子を決定した。原因遺伝子が1塩基のアミノ酸置換であったために、遺伝子の機能が欠如しているかどうかが定かでなかった。また、T-DNA変異株は現存していなかったため、ゲノム編集により、遺伝子を完全に破壊した変異株の作成を試みた。その結果、遺伝子内で大きなDeletionを起こした株を単離することに成功した。また、原因遺伝子の過剰発現を行うためのplasmidの作成が完了した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ABA受容体の生理機能を明らかにするために、シロイヌナズナに存在する14種のPYR/PYL受容体のうち、10種類の変異株を収集してきたが、PYL3, PYL7, PYL10, PYL11に対してはT-DNA変異株が存在しない。そこで、CRISPRを用いて、変異株を新たに作成することを計画した。サブクラスIIIに分類される二量体型ABA受容体の多重変異株は、これまでに得ているpyr1pyl1pyl2の三重変異株をバックグランドにして、PYL3変異株を破壊することにした。リアルタイムHRM解析で PYL3に変異が導入されていることを確認でき、次世代では、予定通りに四重変異株が作成できる見込みである。ABA受容体の単量体型のみで構成される多重変異株は、サブクラスIとIIを考慮して、pyl7pyl8pyl9pyl10の四重変異株、pyl4pyl5pyl6pyl11pyl12pyl13の六重変異株の作成を行うことを計画した。リアルタイムのHRM解析によって、標的遺伝子に変異が導入されていることが確かめられ、計画通りにpyl7pyl8pyl9pyl10の四重変異株とpyl4pyl5pyl6pyl11pyl12pyl13の六重変異株が次世代で完成する予定である。 ASV非感受性変異株の遺伝学的解析 ABA受容体の単量体型に選択的に作用するASV化合物は、種子発芽阻害はもたらすものの、植物の乾燥ストレス応答を誘導できない。つまり、単量体型ABA受容体およびその下流因子は、一般的なストレス応答に直接関与しない可能性が高い。そこで、単量体型受容体で働く下流因子を明らかにするために、EMS変異集団からASV非感受性変異株を複数単離し、原因遺伝子の特定を試みた。その結果、2種の変異株について原因遺伝子の特定に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
ABA受容体多重変異株の作成 ABA受容体のサブクラス別の変異株を作成して、植物生長、種子発芽、ストレス応答などの表現型を調べる。単量体を全て破壊した十重変異株の作成と全ての受容体遺伝子破壊株の作成を進める。 ASV非感受性変異株の遺伝学的解析 候補遺伝子を完全に破壊した変異株を整備して、EMS変異株と同等の表現型を示すのかを解析する。また、植物生長、種子発芽に変化が無いのかを解析する。候補遺伝子の過剰発現株の整備を行い、遺伝子破壊株と同様の表現型の確認を行う。
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