植物ホルモンであるアブシシン酸(ABA)の生理作用は植物種間に多数存在する PYR/PYLと呼ばれる受容体を介して、時空間的に様々な下流因子を介して引き起こされる。本研究では、特定のABA受容体だけに結合し、特異的な組織に作用する新しいABAアゴニストやタンタゴニストを開発し、それらを利用した化学遺伝学的解析により、植物の生長制御や環境応答に関わるABAのシグナル伝達機構の解明を目的としている。ABA受容体は、生化学的解析から単量体型 (サブクラスIとII)と二量体型 (サブクラスIII)に分類される。ゲノム編集を利用して、サブクラス別の多重変異株と全ての受容体変異株の作成を進め、様々な組み合わせの受容体変異株の作成が完了した。 サブタイプ別の変異株の解析では、短期的な乾燥ストレス応答に対して、野生株よりも葉からの蒸散量が増加したものの、サブタイプ変異株間でその差は僅かであった。一方、長期的な乾燥ストレスにおいてはサブクラスIIIの変異株が顕著に萎れる形質を示し、花の開花も早かった。サブクラスIとIIを完全に欠いた単量体変異株では、植物体のサイズが小さくなったものの顕著なABA非感受性は示さなかった。すべてのABA受容体を欠損した変異株はsnrk2の三重変異株よりも強いABA非感受性を示し、植物も矮化するが、サブクラスIIIの受容体で中心的な働きをするPYR1のみを正常にすると、植物体の大きさは若干小さいもののひどい萎れは示さなかった。以上のことから、被子植物ではサブクラスIIIのABA受容体が乾燥ストレス応答や成長などの主要なABAの応答に関わり、サブクラスIとIIのABA受容体はサブクラスIIIの機能を補足する役目があることが明らかとなった。
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