ARL-8は軸索輸送を制御するsmall GTPaseである。私たちのグループはこれまでの研究でARL-8がBORCとよばれる複合体によって活性化されることを明らかにした。small GTPaseは一般的に活性化状態のGTP結合状態で膜小器官に結合し、GDP結合状態で膜小器官から解離する。そのため、ARL-8が膜小器官から解離するような変異体を同定し、その原因遺伝子を決定すればARL-8の活性化メカニズムやARL-8による軸索輸送の制御メカニズムの理解につながると考えた。2019年度は引き続きARL-8に着目した軸索輸送の制御因子の遺伝学的探索を実施した。具体的にはARL-8::YFPを線虫のDA9神経細胞に発現し、膜小器官への結合に異常が起こる変異体を探した。 (1)線虫のJIP3ホモログであるunc-16変異体においてARL-8が細胞体内の膜小器官から解離する表現型が見られた。この膜小器官は、その形態からゴルジ体またはエンドソームではないかと考えられた。JIP3はARL-8の下流で働く因子としてすでに同定されているが、今回の結果はJIP3がARL-8の上流であることを示唆する。ARL-8の制御機構はJIP3を介したフィードバック機構によって制御されている可能性がでてきた。 (2)線虫のシナプシンホモログであるsnn-1の変異体においてもまたARL-8::YFPが細胞体内の膜小器官から解離する表現型が見られた。シナプシンはシナプス小胞の集合を制御する因子として知られているが、細胞体内での機能は全く知られていない。この結果は、シナプシンの新しい機能の同定につながる可能性がある。
|