哺乳類の「ゲノム刷り込み」現象では、特定の遺伝子が、父親と母親のどちらか一方から受け継がれたアリルのみしか発現しない。この片アリル性発現は正常な発生・成長に必須で、その破綻はヒト疾患の原因となる。しかし、制御の基盤となるアリル識別の分子メカニズムの詳細は解明されていない。刷り込み遺伝子座では、精子または卵子の一方のみでDNAメチル化され、受精後も片アリルのみでメチル化される領域(imprinting control region: ICR)が同定されているため、DNAメチル化が親の由来を示すエピゲノム情報の本体であると考えられてきた。しかし我々の先行研究において、生殖細胞で付加されるDNAメチル化以外の情報が、受精後のアリル特異的DNAメチル化の形成に寄与することを示唆する結果を得た。そこで、本研究は、親の由来を示す生殖細胞エピゲノム情報を同定し、その制御メカニズムの解明を目的としている。 我々の作製したトランスジェニックマウスにおいて、導入したICR配列(Igf2/H19遺伝子座の「H19 ICR」)は、内在遺伝子座配列とは異なり精子でDNAメチル化されなかったが、受精後は、内在配列と同様に父由来のみでメチル化された。したがって、内在および導入H19 ICR配列は、DNAメチル化状態にかかわらず、生殖細胞で共通のエピゲノム情報が付加されて、受精後のアリルの識別に使われている可能性が高い。そこで、トランスジェニックマウスと野生型マウスの精子におけるクロマチンの状態を、クロマチン免疫沈降法により解析した。
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