一般に陸上植物の多くは菌根菌と共生しており、土壌の無機塩類と光合成産物を供給し合う相利共生の関係を成立させている。一方、菌従属栄養植物と呼ばれる植物は、光合成能力を失い、菌根菌から養分を略奪するという特異な進化を遂げている。しかしながら菌従属栄養植物は、開花および結実期以外は地上に姿を現さないため、その研究には困難が伴った。このような課題を解決するため、私は、菌従属栄養植物の精力的な探索と記載分類を行い、詳細な研究を遂行するための土台を築いてきた。その土台をもとに、本研究では、植物が関わる重要な共生系である送粉共生系や菌根共生系、種子散布共生系が、菌従属栄養性獲得や菌従属栄養植物の多様化にどのような影響を与えたのかを検討している。 今年度の主要な成果としては、菌従属栄養植物の栽培及びその菌根菌の単離・培養に挑み、複数の共生培養系を確立したことが挙げられる。またこの培養技術を用い、複数のラン科植物が、菌根菌種に応じて同一植物種で独立栄養植物にも従属栄養植物にも変化できることを解明した。ほとんどの菌従属栄養植物は、近縁な独立栄養植物が存在せず、単純な比較解析は不可能であった。さらに菌根菌の多くは難培養性のため、菌従属栄養植物の生育に対し菌類がどのような影響を及ぼすか検証することも困難だった。今回確立した系は、これらの問題点を解決するブレークスルーとなるもので、菌従属栄養戦略の出現・維持条件について理解を深めることができると考えられる。
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