本研究の目的は、海鳥(ミズナギドリ科 Calonectris属)が繁殖地から数百km離れた外洋の餌場から巣へ帰り着くプロセスと、その帰巣パターンがどのような外的・内的制約の下で形成されてきたかを解明することである。帰巣経路や知覚特性(視覚・嗅覚)を、地理的条件や移動距離が大きく異なる環境で繁殖する繁殖地間および種間で比較することによって、帰巣に必要な環境条件や認知メカニズムを探る。当該年度の研究では、この目的に関連して以下の成果を得た。
1)帰巣行動の繁殖地間比較を行うための基礎情報として、日本国内のオオミズナギドリ繁殖地4か所で採取したサンプルを用いて遺伝的分化の有無を調べた。マイクロサテライトマーカー解析の結果、遺伝的分化は起こっていないことが示唆された。一方で、標識再捕記録(山階鳥類研究所提供)によれば、過去30年間に個体が繁殖地間を移動した例はほとんどなかった。繁殖地間の行動比較をする際はこれらの結果を踏まえて慎重に考察する必要がある。 2)鳥類2000種以上の脳サイズを比較し、ソアリング飛行をする鳥類が相対的に大きな脳を持つことを示した。本研究で対象としているミズナギドリ類はソアリング飛行をするグループであり、相対的に大きな脳が長距離移動に関わる空間・時間認知能力を支えている可能性がある。 3) Calonectris属全4種の移動経路データを用いて、帰巣中の移動パターンの種間および繁殖地間での比較に取り組んだ。この解析には、自身が調査で取得したデータと国内外の共同研究者から提供を受けたデータを用いている。引き続き、共同研究者と議論をしながら解析を継続する予定である。
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