研究課題/領域番号 |
17H05024
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
櫻庭 康仁 東京大学, 生物生産工学研究センター, 助教 (80792192)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 光シグナル / リン栄養獲得 / シロイヌナズナ / フィトクロムB |
研究実績の概要 |
初年度に、赤色光が植物のリン酸イオンの吸収や蓄積にどのように関与するか検証した。シロイヌナズナのCol-0野生株を赤色光条件下で育成し、通常の白色光条件下で育てた個体に比べ、リン酸イオンの吸収と蓄積量が変化するかを調べた。リン酸イオンの吸収速度は放射性同位体を用いて、蓄積量はイオンクロマトグラフを用いて分析した。結果、白色光照射時に比べて、赤色光を照射したCol-0野生株では、リン酸吸収能力および蓄積量が上昇した。また、赤色光シ グナルの無機栄養の吸収と利用の制御の生理的意義を明らかにするために、赤色光受容体フィトクロムB、赤色光シグナルの負の制御因子PIF転写因子、正の制御因子HY5の欠損株や過剰発現体を異なるリン栄養条件で栽培し、表現型解析を行った。さらにフィトクロムBの下流で、PIF4とPIF5、そしてHY5転写因子がリン酸輸送体遺伝子PHT1;1の発現を直接調節することを実験的に明らかにした。 次年度は、フィトクロムB変異株と野生型株の接木体におけるリン酸吸収速度の解析を行い、フィトクロムB変異株の穂木、野生型株の台木を用いて作製した接木体では、野生型株に比べてリン酸吸収能力が顕著に低いことが分かり、これら一連の結果から、葉に照射された赤色光により活性化されたフィトクロムBがPIF転写因子やHY5転写因子の活性を調節し根におけるリン酸吸収を促進させていることが示唆された。この研究成果は、2018年12月にNature Plantsに掲載された。さらにイネにおいても、フィトクロムBを介した赤色光シグナルが根からのリン酸吸収を促進させることが分かり、この研究成果をまとめた論文は現在投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のように、次年度までに計画していたほとんどの実験を遂行し、フィトクロムBを介した赤色光シグナルが植物の根からのリン栄養の獲得の促進に関わっていることを明らかにし、その分子メカニズムについても一部明らかにすることに成功した。さらにこれらの研究成果をまとめた論文は2018年にNature Plants誌に掲載された (Sakuraba et al. 2018 Nature Plants, 4:1089-1101)。これらのことから、本研究課題は当初の研究計画に沿って順調に進んでいる。一方、当初予定してい た、フィトクロムBを介した赤色光シグナルの窒素栄養獲得の制御における機能については現在も研究を遂行中であり、次年度以降引き続き行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
赤色光シグナルがリン栄養だけではなく窒素栄養の獲得促進にも関わるかを検証する。次年度に行った研究において、フィトクロムB、PIF転写因子、HY5転写因子を介した赤色光シグナルが根からの硝酸態窒素の獲得の促進に関わっていることを示唆する結果が得られている。さらに、リン酸獲得の制御の場合と同様に、地上部に局在するフィトクロムBやPIF転写因子が根からの硝酸態窒素の獲得に影響を与えていることが示唆された。そこで、接木体の根を用いたDNAマイクロアレイ 解析を行い、地上部に局在するフィトクロムBやPIF転写因子に影響を受ける根の遺伝子の同定を行う。また、地上部に局在するPIF転写因子が根へ移動し窒素栄養獲得に関わる遺伝子の発現を直接調節している可能性も考えられる。そこで、Mycタグタンパク質を融合したPIFタンパク質を発現させたシロイヌナズナの形質転換体を作製し、その形質転換体を用いた接木実験により、PIFタンパク質の地上部-根間を移動するモバイルタンパク質としての可能性を探る。
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