研究課題
これまでに我々は、ヒト腸内細菌叢最優勢種56種のうち培養可能な44種をコレクションし、そのうちの32種が汎用培地であるGAMで生育可能であることを初めて示し、この32種についてハイスループット培養・評価系を構築している。本研究では、この系を用いて、上記32種の細胞内および培養上清中のポリアミン濃度(プトレッシン、スペルミジン、スペルミン)を定量し、各菌株のゲノム情報と照らし合わせた。この結果、ヒト腸内常在菌叢最優勢56種のうち、新規ポリアミン取り込み系を持つと推定されるものが少なくとも2菌種(Eubacterium siraeum,Collinsella aerofaciens)、新規ポリアミン放出系を持つと推定されるものが少なくとも7菌種(Bacteroides dorei,Bacteroides stercoris,Dorea longicatena,Dorea formicigenerans,Ruminococcus torques,Blautia hansenii)、新規ポリアミン合成系(D. longicatena,Parabacteroides merdae,E. ventriosum)を持つと推定されるものが少なくとも3菌種存在した。また、ヒト腸内細菌叢において優勢な細菌種であるBacteroides doreiにおいて、マーカーレス遺伝子欠損系を確立した。具体的には、他のBacteroides属細菌で応用されているように、チミジンキナーゼ遺伝子(tdk)欠損株と対抗選択マーカーtdkを用いてマーカーレス遺伝子欠損を導入する系を構築した。本系を駆使して作出したアルギニンデカルボキシラーゼ遺伝子(speA)欠損株は、親株と比較して生育能が大幅に低下していた。さらに、speA欠損株の細胞内および培養上清中のスペルミジン濃度は親株よりも大きく低下していた。培養上清中のプトレッシン濃度をハイスループット定量する目的で、プトレッシンがプトレッシンオキシダーゼによって参加される際に放出される過酸化水素をTOPSと4-アミノアンチピリンの発色により定量する手法を開発した。
2: おおむね順調に進展している
生育度を指標としたスクリーニングは不安定であることが判明したため、腸内細菌の遺伝子にランダム変異を入れ、培養上清中のポリアミン濃度が減少した変異株をポリアミンのハイスループット簡易比色定量法で定量したところ、良好な結果を得られた。このシステムを用いて、腸内におけるポリアミン濃度を上昇させるうえで最も重要な、腸内細菌のポリアミンエクスポーターについて、新規なものの候補遺伝子を2種スクリーニングすることに成功した。(2017年度の繰り越しを考慮し、2019年5月に作成している報告書であるため、2018年度実績報告書と一部同内容になります。)
ヒト腸内常在菌叢最優勢種56種の中においてBacteroidetes門に属する腸内細菌は約43%、Bacteroides属に属する腸内細菌は約36%を占めている。また、これま での研究で、Bacteroides vulgatus、Bacteroides doreiなど数種のBacteroides属細菌が菌体外へ多量のポリアミンを放出することが知られているため、これら の細菌種が腸内のポリアミン濃度を決定している可能性が高い。そこで今後はこのBacteroides属細菌のポリアミン合成・輸送系の解明を行う。 さらに、これまでの研究で候補遺伝子がスクリーニングされたProteus mirabilisについてもポリアミンエクスポーター遺伝子の同定を行う。(2017年度の繰り越しを考慮し、2019年5月に作成している報告書であるため、2018年度実績報告書と同内容になります。)
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