研究課題/領域番号 |
17H05026
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研究機関 | 石川県立大学 |
研究代表者 |
栗原 新 石川県立大学, 生物資源環境学部, 寄附講座准教授 (20630966)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ポリアミン / 腸内細菌 / 酵素 / トランスポーター / プトレッシン |
研究実績の概要 |
13 種のヒト常在性ビフィズス菌のポリアミン (プトレッシン、スペルミジンおよびスペルミン) 合成能および輸送能を解析した。試験したビフィズス菌のうち、11 種にポリアミン合成能を認め、10 種にポリアミン輸送能を認めた。さらに、各ビフィズス菌のポリアミン合成能および輸送能と既知ポリアミン合成酵素、分解酵素およびトランスポーターのホモログの有無を照らし合わせた結果、ヒト常在性ビフィズス菌が新規のポリアミン合成酵素およびトランスポーターを有することが示唆された。 腸内細菌はヒト腸管内では複雑な細菌叢を形成しているため細菌間の相互作用にも考慮する必要がある。そこで腸内細菌叢の最も単純なモデルとして、腸内細菌2菌種の混合培養を行い、ポリアミンを高生産する組み合わせをスクリーニングしたところ、腸内細菌叢最優勢54位のEnterococcus faecalisとモデル腸内細菌である大腸菌の混合培養でポリアミン生産が飛躍的に高まることを見出した。次にその産生機構を両菌の遺伝子破壊・相補株を定着させたマウスを用いて解析したところ、以下の機構が明らかとなった。すなわち、大腸菌のAdiCによって環境中から取り込まれたアルギニンが、本菌の細胞内でAdiAによってアグマチンへと変換される。このアグマチンは大腸菌のAdiCにより環境中へと放出され、放出されたアグマチンはE. faecalisのAguDによりその細胞内に取り込まれる。次にE. faecalisのAguA等の触媒する反応によりプトレッシンにまで代謝され、AguDにより環境中へと放出されることが明らかとなった。 腸内細菌の一種で、細胞外へ盛んにプトレッシンを放出することが知られているProteusu mirabilisのプトレッシントランスポーターについて、その候補となる遺伝子2種のスクリーニングに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒト腸内常在菌叢最優勢種およびヒト健康に様々な有益な影響を与えることが知られている善玉菌であるビフィズス菌のポリアミン輸送・合成について知見が、これまでの研究でそろい、査読付き学術誌に報告することができた。また、腸内細菌は生体内では複雑な細菌叢を形成しているため、細菌間の相互作用を考慮する必要があるが、混合培養系におけるポリアミン産生機構の分子機構の一端にてついて遺伝子レベルで解明し、サイエンス姉妹誌に報告することができた。 さらに、腸内におけるポリアミン濃度を上昇させるうえで最も重要な、腸内細菌のポリアミンエクスポーターについて、新規なものの候補遺伝子を2種スクリーニングすることに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
ヒト腸内常在菌叢最優勢種56種の中においてBacteroidetes門に属する腸内細菌は約43%、Bacteroides属に属する腸内細菌は約36%を占めている。また、これまでの研究で、Bacteroides vulgatus、Bacteroides doreiなど数種のBacteroides属細菌が菌体外へ多量のポリアミンを放出することが知られているため、これらの細菌種が腸内のポリアミン濃度を決定している可能性が高い。そこで今後はこのBacteroides属細菌のポリアミン合成・輸送系の解明を行う。 さらに、これまでの研究で候補遺伝子がスクリーニングされたProteus mirabilisについてもポリアミンエクスポーター遺伝子の同定を行う。
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