様々な生物の健康寿命延伸に大きく寄与しているポリアミンの大腸腸管内腔における濃度は最大で数 mMであり、このポリアミンは腸内細菌由来である。したがってその最適化には、ヒト腸内に優勢に存在する菌種のポリアミン生合成機構の解明が必要である。そこで、ヒト腸内常在菌叢最優勢8位の菌種であり、遺伝子操作が可能なBacteroides thetaiotaomicronを研究対象として、そのポリアミンの生合成機構の遺伝学的・生化学的解析を行った。B. thetaiotaomicronのポリアミン生合成系をBlast解析した結果、本菌はカルボキシスペルミジンを反応中間体とするスペルミジン生合成経路を有することが推定された。これらの推定スペルミジン生合成系を構成する遺伝子の機能検証の一環として、カルボキシスペルミジンをスペルミジンへと変換する酵素であるカルボキシスペルミジン脱炭酸酵素(CASDC) の生化学的解析を行った。精製CASDC-(His)6を用いてその酵素活性を解析したところ、カルボキシスペルミジンをスペルミジンへと変換する能力を有していた。また、Kmは48.8μM、kcatは345 (1/sec)であった。また、CASDCの酵素活性は基質であるカルボキシスペルミジンと生成物であるスペルミジンに阻害されることが明らかとなり、生成物であるスペルミジンによるCASDCの酵素活性のフィードバック阻害を通じたポリアミンホメオスタシスの存在が示唆された。 さらに、腸内で著量のポリアミンを産生し、直接ポリアミン濃度を上昇させるプロバイオティクスの開発を目的として、食品由来乳酸菌のポリアミン産生量を解析したところ、石川県産発酵食品「かぶらずし」から分離された乳酸菌Lactobacillus curvatus KP3-4が、プトレッシンを1 mM以上の高濃度で産生することを発見した。
|