研究課題
あらゆる生物において、モリブドプテリンや鉄硫黄クラスターなど含硫補因子やtRNAのチオ化修飾は生命維持に寄与している。常温生物では、システインデスルフラーゼ(CDS)の作用によりL-システインから脱離する硫黄が、これら含硫化合物への硫黄転移に使われる。一方、初期生命の性質を強く残している超好熱性アーキアの多くは、CDSオルソログをもたず、これら含硫化合物の生合成系は不明である。超好熱性アーキアの含硫化合物の生合成系が、全生物の共通祖先が有していた始原的経路と考えられる。本研究の独創的な点は、生命起源に近い生物であるT. kodakarensisやS. acidocaldariusのモリブドプテリン生合成やtRNAチオ化の硫黄転移系に着目し、超好熱性アーキアの硫黄転移系の普遍的なモデルを構築する試みにある。本年度は、T. kodakarensisの硫黄転移のキャリアーと考えられるユビキチン様タンパク質オルソログ(TK1065, TK1093, TK2118)に着目した。それぞれのオルソログの機能を調べるために、特異的遺伝子破壊を試みた。得られたそれぞれ3種の遺伝子破壊株の生理的及び生化学的解析の結果、TK2118がモリブドプテリンの生合成に関わる事が示唆された。次に、これら遺伝子破壊株を、野生株の至適生育温度(85℃)及び高温ストレス環境(93℃)で培養したところ、TK1065やTK2118遺伝子破壊株はいずれの温度でも野生株と比べて同等に生育した一方で、TK1093遺伝子破壊株は93℃で著しい生育遅延を示した。tRNAのチオ化修飾は、好熱菌の高温での生育に重要であると考えられるため、TK1093はtRNAのチオ化修飾に関わると予想された。
2: おおむね順調に進展している
平成29年度は、超好熱菌Thermococcus kodakarensisのモリブドプテリン生合成における硫黄転移機構に着目した。含硫化合物への硫黄転移系では、ユビキチン様タンパク質が関与することが多くの常温生物で知られている。T. kodakarensisは、3つのユビキチン様タンパク質オルソログ(TK1065、TK1093、TK2118)を有している。本年度は、このユビキチン様タンパク質遺伝子の特異的破壊や、遺伝子破壊株のモリブドプテリン含有酵素活性測定を行うことで、その関与を調べ、以下1~4の結果が得られた。1. TK1065、TK1093、TK2118のいずれの遺伝子の単独での破壊に成功した。2. TK1065、TK1093遺伝子破壊株はマルトオリゴ糖含有栄養培地で生育した一方、TK2118破壊株は生育できなかった。3. TK2118遺伝子破壊株では親株と比べてモリブドプテリン含有酵素活性の顕著な減少が見られた。4.TK1093遺伝子破壊株は親株と比べて生育上限温度93℃で生育遅延を示した。T. kodakarensisはマルトオリゴ糖を炭素源として資化でき、その資化経路にはグリセロアルデヒド-3-リン酸:フェレドキシン酸化還元酵素が働く。本酵素は、活性発現にモリブドプテリンを要求する。つまり、TK2118遺伝子破壊株のマルトオリゴ糖含有栄養培地での生育欠損は、本酵素活性の欠失によるものと予想された。さらに、TK2118遺伝子破壊株のモリブドプテリン含有酵素活性が減少したことから、TK2118がモリブドプテリン生合成に関わる事が示唆された。また、tRNAのチオ化修飾は、好熱菌の高温での生育に重要であると考えられるため、TK1093はtRNAのチオ化修飾に関わると予想された。
TK2118のモリブドプテリン生合成への関与を生化学的に調べる。具体的には、TK2118遺伝子破壊株でのモリブドプテリン前駆体であるPrecursorZの蓄積を調べる。TK2118の硫黄転移系を明らかにするため、T. kodakarensis CDSやアデニル基転移酵素TK2117とのタンパク質間相互作用やCDS活性のTK2118やTK2117による活性化を調べる。一方、TK1093のtRNAのチオ化修飾は、TK1093遺伝子破壊株より全RNAを抽出し、LC-MSでtRNAのチオ化修飾(2-チオウリジン及び4-チオウリジン)を解析する。好熱性アーキアSulfolobus acidocaldariusの3種のユビキチン様タンパク質遺伝子(Saci_0952、Saci_0666、Saci_1691)の破壊を試みる。これら遺伝子の生理的、生化学的解析を行う。
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