研究実績の概要 |
シクロペンテノン型プロスタグランジン代謝の機能解析として、本年度は、(機能解析1)腸絨毛形成における機能解析と(機能解析2)腸管免疫における機能解析を行った。(機能解析1)では、シクロペンテノン型プロスタグランジンによるアポトーシス作用を検討するとともに、グルタチオン転移酵素と硫酸転移酵素による抗アポトーシス作用を解析した。初めに、腸管発現グルタチオン転移酵素であるGSTA1,GSTM4,GSTP1をヒト小腸RNAより、クローニングし、動物細胞発現系ベクターpcDNA4に組み込んだ発現系を作製した。サル腎臓細胞株であるCOS-7および腸のモデル培養細胞であるCaCo-2細胞にGSTA1, GSTM4, GSTP1,そして硫酸転移酵素SULT7A1をそれぞれ一過性に発現させ、シクロペンテノン型プロスタグランジンである15d-PGJ2とPGA2による細胞毒性試験を行った。15d-PGJ2とPGA2では、15d-PGJ2のほうが強いアポトーシス作用を示した。代謝酵素発現細胞では、抗アポトーシス作用を示したがその効果は限定的であった。 (機能解析2)では、15d-PGJ2とPGA2のグルタチオン体と硫酸体を酵素的に合成し、固層抽出とHPLCにて精製し、LC-MSで構造の確認を行った。調製したグルタチオン体と硫酸体を用いて、プロスタグランジン受容体へのリガンド作用を解析した。15d-PGJ2の硫酸体及びグルタチオン体ともに、PGD2受容体(DP1)へのリガンド活性は弱くなるが、新たに、PGE2受容体(EP2)やPGI2受容体(IP)に対するアンタゴニスト活性を示した。一方、PGA2の硫酸体は、PGE2受容体(EP2, EP4)へのリガンド活性が減少した一方、グルタチオン体はPGA2より強いアゴニスト活性を示し、代謝による構造変化がリガンド活性に影響を与えたことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初は、PGE2の代謝型であるPGA2のアポトーシス作用と代謝酵素による抗アポトーシス作用を評価しようと試みたが、代謝酵素を発現していない細胞を用いて試験した結果、PGA2のアポトーシス作用は強いものではなかった。そのため、当初のノックダウン実験に切り替え、代謝酵素を過剰発現させた細胞を用いた実験及び、より強いアポトーシス効果を示したPGD2の代謝型である15d-PGJ2のアポトーシス作用検討も追加し、両者のアポトーシス作用を検討した。検討に当り、グルタチオン転移酵素の発現系を構築した。当初のGSTA1とGSTP1に追加し、腸管に特異的に発現しているGSTM4の3種類のグルタチオン酵素と硫酸転移酵素SULT7A1の計4種類の代謝酵素を一過性に発現させた細胞で評価したところ、想定したよりも抗アポトーシス効果は強くなかった。次年度は、より広い視野で研究するため、PGE2/PGD2の過酸化アルデヒド・脂質代謝物でも同様の試験を行う予定である。次に、PGA2のグルタチオン体および硫酸体のプロスタグランジン作用解析であるが、前述に従い、15d-PGJ2のグルタチオン体の評価も追加した。PGA2の硫酸体・グルタチオン体、15d-PGJ2のグルタチオン体は、すべて酵素的に調製することができた。リガンド活性評価では、PGD2, PGE2, PGF2, PGI2受容体に対する評価を行うことができた。しかし、in vivo-knock down実験は、実験室などの施設や動物実験計画の承認を得ることが、本年度中にはできなかったことから、次年度以降に予定を繰り下げる必要が生じた。以上のことを踏まえ、予定以上に実験計画を膨らまし行うことができた一方、動物実験が遅れていることを考慮し、進捗状況・達成度はおおむね順調とした。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、(機能解析1)腸絨毛形成における機能解析と(機能解析2)腸管免疫における機能解析のin vitro培養細胞実験を行うとともに、in vivoノックダウン実験の条件検討を行う。 <in vitro培養細胞実験> (機能1):腸絨毛形成における機能:引きつづき、シクロペンテノン型プロスタグランジンによるアポトーシス作用解析及びその代謝の機能解析を行う。更に、プロスタグランジンをはじめとするエイコサノイドの過酸化代謝体に対する硫酸化及びグルタチオン化による代謝を酵素活性および細胞を用いた代謝実験により明らかにする。代謝を受けることが明らかになった過酸化代謝物に関しては、シクロペンテノン型プロスタグランジン代謝酵素 (GSTA1,GSTP1,SULT7A1)を含めた代謝酵素を過剰発現させた細胞を用いて、そのアポトーシス作用及び代謝の抗アポトーシス効果を検討する。抗アポトーシス作用を示した代謝反応に関しては、ノックダウン実験により、その効果を確認する。(機能2):腸管免疫における機能:調製した15d-PGJ2硫酸体及びグルタチオン体、PGA2硫酸体及びグルタチオン体のトロンボキサンチン受容体に対する作用も追加で行う。次に、硫酸体及びグルタチオン体のプロスタグランジン受容体アゴニスト・アンタゴニスト活性を免疫細胞(RAW264.7やJurkat細胞等)にて確認後、その免疫細胞に対する作用を遺伝子発現及びタンパク質発現レベルで評価する。また、代謝反応は可逆反応であるため、硫酸基を脱離する酵素反応に関しても研究を行う。 <in vivoノックダウン実験> ・ノックダウンマウス作製:動物実験計画書の承認を動物実験委員会より得る。承認を得るのに時間を有しているが、承認後は、速やかに研究を実施する。遺伝子特異的siRNAによる標的遺伝子のノックダウン効率を確認し、表現型に対する影響を解析する。
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