研究課題/領域番号 |
17H05028
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
黒木 勝久 宮崎大学, 農学部, 助教 (20647036)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | プロスタグランジン / 硫酸化 / サイトカイン / in vivo ノックダウン |
研究実績の概要 |
本年度は、(機能解析1)腸絨毛形成における機能解析と(機能解析2)腸管免疫における機能解析をin vitro培養細胞実験とin vivoノックダウン実験の両方向から実施した。<in vitro培養細胞実験>では、15d-PGJ2硫酸体とPGA2硫酸体の作用を免疫細胞(THP-1細胞)を用いて解析した。特に、PGE2代謝産物であるPGA2とその硫酸体によるサイトカイン発現解析では、興味深い結果が得られた。PGE2処理下では、炎症性サイトカイン(IL-1b等)の発現誘導が確認された一方、PGA2ではその発現誘導効果が弱まり、PGA2硫酸体では完全にキャンセルされていた。一方、一部のサイトカインはPGA2硫酸体特異的に発現が著しく減少することも明らかとなった。次に、抗原存在下を想定し、LPS刺激時のサイトカイン発現への作用も解析した。その結果、LPS未刺激とは全く異なるサイトカイン発現制御を示し、硫酸体がサイトカイン発現を上昇させていた。以上の結果から、PGE2だけでなくその代謝経路全体で腸管の炎症や免疫を複雑に制御していることが考えられた。 < in vivoノックダウン実験>では、SULT7A1遺伝子siRNAを用いて、ノックダウン試薬、使用用量(0.25, 0.5, 1.0 mg/kg)、投与方法を検討した。初めに検討した試薬(in vivo fectamine)では尾静脈・腹腔内注射ともに全ての使用量でノックダウンの効果を得ることが出来なかった。そこで、別のノックダウン試薬(AteloGene)を用いて検討した結果、40 uMのsiRNA 200 uL, 腹腔内注射で70-80%程度のノックダウンの効果をSULT7A1タンパク質発現レベルで確認することが出来た。さらに、リアルタイムPCRを用いた解析結果より、上皮形成遺伝子や腫瘍関連遺伝子、サイトカインなどの発現に影響が確認され、12指腸の生理機能維持にSULT7A1が機能していることが考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
<in vitro培養細胞実験>プロスタグランジン受容体の免疫細胞へのサイトカイン発現制御解析実験では、おおむね当初予定した計画通りの実験を遂行することができた。ヒト免疫細胞で血球系細胞株であるTHP-1を用いて抗原存在下と非存在下でのサイトカイン発現誘導に及ぼす影響をリアルタイムPCRを用いて解析することが出来た。当初予定ではRAW264.7やJurkat細胞を予定していたが、予備試験であまりサイトカイン応答性が優れなかったため、THP-1細胞に切り替えた。次に、硫酸体を作用したTHP-1細胞を蛍光ディファレンシャル二次元電気泳動に供し、発現タンパク質の変動を確認することが出来た。この実験は予備実験程度であったため、来年度に詳細なデータ解析を行う。よって、in vitro培養細胞実験は、当初の予定通りの研究が遂行できた。 <in vivoノックダウン実験>今年度はマウスを用いたノックダウン実験を行うことが出来、また、当初計画とは異なる試薬ではあったが、腹腔内注射による標的酵素の発現を抑えることに成功した。さらに、リアルタイムPCRによる実験でSULT7A1ノックダウンへの影響も確認することが出来た。また、マウス12指腸より15d-PGJ2の抱合型代謝物をLC-MSによる検出手法を確立することが出来た。一方、12指腸のノックダウン手法の確立に時間がかかったことから、ノックダウンの影響を形態学的およびプロテオミクスによる解析を行うことが出来なかったため、進捗状況・達成度はやや遅れているとした。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、(機能解析1)腸絨毛形成における機能解析と(機能解析2)腸管免疫における機能解析をin vitro培養細胞実験とin vivoノックダウン実験の両方向から実施する。 <in vitro培養細胞実験> 腸管免疫における機能:15d-PGJ2硫酸体(IPへのアンタゴニスト活性)とPGA2硫酸体(EP4に対するインバースアゴニスト活性)の作用を免疫細胞(THP-1細胞)や腸細胞(Caco-2細胞)を用いて解析する。特に、腫瘍関連分子(COX-2, MMP, MCP-1など)発現への影響をリアルタイムPCRを用いて解析する。さらに、プロスタグランジン受容体のアンタゴニストなどを用いて、抱合型代謝物によるサイトカインと腫瘍関連分子の発現に関わる受容体を調査する。また、プロテオミクスの手法を用いた網羅的な発現解析も行う。 <in vivoノックダウン実験> ノックダウンマウスを用いた機能解析:腹腔内にSULT7A1とGST遺伝子のsiRNAを投与し、投与後1-2週間後にプロスタグランジン代謝(PGA2と15d-PGJ2)に与える影響をメタボロミクスの手法を用いて解析する。さらに、腸管免疫における作用解析に関して、リアルタイムPCRを用いたIL-1bやMCP-1などのサイトカインや腫瘍関連分子の発現解析や網羅的なタンパク質発現解析を行うことで実施する。腸絨毛形成における機能解析は、腸の組織の形態学的観察により評価する。また、遺伝子ノックダウンによる腸内細菌叢への影響も調査する。個別遺伝子のノックダウンだけではなく、ダブルノックダウン実験も行うことで、シクロペンテノンプロスタグランジンの代謝の生理機能を解析する。代謝酵素のノックダウンの影響をプロテオミクスの手法を用いて網羅的に解析する。
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