本研究では、結実期によって動物散布植物の垂直散布の方向(種子が低標高に散布されるか、あるいは高標高に散布されるか)が決定されるという仮説の検証を課題の最終目的としている。そのため、温帯で代表的な動物散布システムを用いて、春夏・秋冬結実植物の垂直散布の比較評価を計画している。さらに、文献を利用して植物の垂直分布の時系列変化と垂直散布との対応関係を評価することで、垂直散布が実際の植物の分布変化を駆動しているかまでを明らかにする。
今年度(繰越分含む)は果肉を動物に提供する代わりに種子を散布してもらう周食散布植物を継続して研究対象とし、鳥類と哺乳類の散布種子を糞から回収した。また過去のサンプルも含め、同位体分析を進めた。夏から秋の端境期に結実する植物(ウワミズザクラ)では、これまで特定の標高へ偏った種子散布は確認されていなかったが(足尾山地および阿武隈高地)、岩手山では高標高へ偏った種子散布が確認された。これは岩手山がこれまでの調査地より寒冷な場所にあることが影響していると推測された。貯食散布植物について、カラス科鳥類の貯食場所などから秋結実のハイマツ、ブナの種子をサンプリングした。散布種子の分析から、ハイマツ、ブナのいずれにおいても低標高へ偏った種子散布が確認された。また、垂直散布と近年の植物の垂直分布変化の関係を文献情報から評価し、サンプル数が少ないこともあり統計的に有意ではないが夏結実植物は秋冬結実植物よりも高標高へ分布を移動している傾向を見出した。
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