本研究では、造礁サンゴの骨格形成に関わる水温応答や骨格タンパク質に着目し、海洋生物がカルサイトとアラゴナイトをどのように作り分けているのか、造礁サンゴがカルサイト(またはアラゴナイト)を能動的に作るのか、受動的に作るかを明らかにすることを目的に研究を進めた。 2019年度は、海洋酸性化がサンゴの骨格形成に与える影響について、イタリアのパレルモ大学、CNRとの共同研究を進めた。無藻性サンゴを用いた飼育実験を行い、高CO2の影響を調べた。顕微ラマン分光光度計により骨格結晶型を確認した結果、両条件共に100%のアラゴナイト骨格が見られ、海洋酸性化は骨格結晶型に影響しないことがわかった。 また、これまでに成長させた骨格の分析や遺伝子解析を主体的に行った。サンゴ骨格は一般にアラゴナイト結晶からなるが、海水中のMg/Caを変化させることにより、カルサイト骨格を有したサンゴを作成し比較した。低Mg/Caで成長させた骨格については、X線回折およびMeigen染色法により、アラゴナイト・カルサイトの有無を確認すると同時に、網羅的遺伝子解析(RNAseq)でサンゴのアラゴナイト・カルサイト生成に関わる遺伝子の解析を行い論文を発表した。これまで先行研究で報告されているタンパクと比較すると、galaxinなど通常の条件でも見られる骨格形成関連の遺伝子発現が大きく上昇した。この結果は、サンゴがアラゴナイト骨格を作るため積極的に骨格形成に関する遺伝子を発現させていることを示唆した。つまり、造礁サンゴは能動的にアラゴナイトを作ろうと試みているということが考えられる。ただし、Mg/Caが0.5の海水では、カルサイトが大部分を占めていた。このことにより、極度の低Mg/Ca海水下では、サンゴが遺伝子発現上昇により能動的にアラゴナイトを生成しようとしても、受動的にカルサイトが生成してしまことが明らかとなった。
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