研究課題
湖沼は重要な温室効果ガスであるメタンの放出源であるが、観測データの量と質の制限によりその放出量の推定には大きな不確定性が残されている。本研究では、大気へのメタン放出量が特に大きい浅い湖である諏訪湖を対象として、渦相関法を用いたメタン放出の連続測定をおこない、それを溶存メタン濃度や気象・湖内環境データ、培養実験データと統合的に解析することで、放出の定量化とその環境応答性を明らかにすることを目的としている。また、観測データを基にパラメータ決定や改良をした数理モデルを用いてメタン放出の将来予測を行う予定である。平成30年度には、継続して渦相関法によるメタン放出量と気象・湖内環境の連続測定と定期的な溶存メタン濃度の観測を実施した。また、湖底堆積物中におけるメタン生成と湖水中のメタン酸化を明らかにするために、培養実験を実施した。データ解析から、以下のことが明らかとなった。(1)諏訪湖においては時折発生するバブルによるメタン放出が全体の6割ほどを占めていた。(2)拡散によるメタン放出は風速と表層の溶存メタン濃度に依存していた。(3)バブルによるメタン放出は明け方に発生する傾向があり、風速増加や前静圧減少と関連していた。(4)冬季のバブルによる放出はメタンバブルの蓄積に制限を受けていた。(5)夏季の湖水中の溶存メタン濃度は湖底付近で高くなっているが、高風速や夜間の水面表層の冷却による湖水混合により、表層の溶存メタン濃度が増加していた。(6)モデルシミュレーションにおいては、堆積層内のメタン生成と湖水中のメタン酸化のパラメータを培養実験の結果から決定することで、溶存メタン濃度とメタン放出量の再現性が向上した。なお、上記(1)から(4)の成果については、現在、投稿論文にまとめているところである。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究課題で計画していた研究は順調に実施できている。メタン放出や気象・湖内環境の連続観測は最大限欠測の無いように実施しており、季節変化や日変化を明らかにするデータの取得ができている。溶存メタン濃度の観測も計画どおりの月一回の測定を実施しており、その季節変化が明らかとなっている。それに加えて、当初の計画に無かった溶存メタン濃度の連続観測にも挑戦しており、溶存メタン濃度の日内変動を明らかにしつつある。開発したメタン放出量をバブルと拡散による放出に分離する手法を長期データに適用し、その結果を投稿論文としてまとめているところである。
今後も予定通り計画を進めて、観測の継続をおこなう。また、メタン放出の環境応答性を明らかにし、論文にまとめる予定である。特に、湖水の混合プロセスの把握とそれによるメタン拡散放出への影響に注目し、データ解析と数値モデルの改良を計画している。また、メタンバブル放出の数理モデルによる推定の向上にも取り組む。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
Boundary-Layer Meteorology
巻: 169 ページ: 413~428
10.1007/s10546-018-0383-1
http://science.shinshu-u.ac.jp/~hiwata/program.html