研究課題/領域番号 |
17H05040
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
佐藤 祐介 宇都宮大学, 農学部, 講師 (50589520)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 褐色脂肪組織 / 代謝 / ミトコンドリア / Apobec2 / 骨格筋 |
研究実績の概要 |
褐色脂肪組織は脂肪酸と糖のエネルギーを消費することで、恒温動物の体温維持に寄与している。近年、多くの哺乳類が、機能的褐色脂肪組織を有することがわかったが、その分化や熱産生の制御機構は未解明のままである。申請者は、AID/Apobecファミリーの1つであるApobec2が褐色脂肪組織における代謝性熱産生を制御すると仮説を立てた。本研究では、この仮説について細胞および生体レベルで検証する。初年度の計画に基づき、Apobec2 欠損が脂肪の表現型に及ぼす影響について精査した。 褐色脂肪組織の形態を観察するため、パラフィン切片のHE染色を行うと、Apobec2欠損マウスでは、野生型マウスに比べて小さな脂肪滴を有することがわかった。透過型電子顕微鏡による超微細構造の観察からも、Apobec2欠損マウスの褐色脂肪組織では小さな脂肪滴が確認され、更にミトコンドリアの膨潤が観察された。呼吸交換比の測定を行うと、Apobec2欠損マウスは野生型よりもエネルギー消費量および脂肪酸化が有意に高い値を示した。一方で、褐色脂肪組織における熱産生や脂肪分化に関連する遺伝子発現をqPCRにて定量したが、野生型とApobec2欠損型で変化は見られなかった。そこで、ミトコンドリアの異常を細胞レベルで確認するため、初代培養褐色脂肪細胞を用いた。JC-1プローブを用いてミトコンドリアの脱分極状態を観察すると、Apobec2欠損マウス由来の褐色脂肪細胞の多くのミトコンドリアが脱分極していることがわかった。初年度の研究から、Apobec2欠損は褐色脂肪組織のミトコンドリアの異常を引き起こすことが明らかになった。現在、褐色脂肪のミトコンドリア異常が、エネルギー代謝に与える影響について検討している。研究結果は、Apobec2が褐色脂肪組織の活性化やミトコンドリアにおけるエネルギー代謝制御に関与することを示すものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの研究により、Apobec2欠損が褐色脂肪組織の活性化やミトコンドリアの異常を引き起こすエビデンスを得た。一方で、qPCRの結果から、Apobec2欠損は熱産生や脂肪分化に関連するマーカー遺伝子発現に影響しなかったことから、未知の作用機序により褐色脂肪組織の活性化を引き起こしている可能性が考えられる。初年度の計画では、細胞外フラックスアナライザーを用いて培養褐色脂肪細胞のエネルギー代謝測定を予定しており、現在までに解析条件を確立した。今後、Apobec2が発現している筋細胞や褐色脂肪細胞について、検証したい。褐色脂肪における熱産生や分化の機構については、未解明な部分が多いため、本研究により新たな機構が発見される可能性を期待している。
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今後の研究の推進方策 |
呼吸交換比の測定から、Apobec2欠損がマウス生体レベルで代謝を亢進するエビデンスを得られたが、これが特定の組織に由来するか否か、はわかっていない。Apobec2を高発現する組織(褐色脂肪組織、骨格筋、心筋)由来の細胞に対し、細胞外フラックスアナライザーを用いてエネルギー代謝の測定を行う。特に、解糖やミトコンドリアの呼吸に変化があるか否か、検証する。細胞レベルでの代謝亢進が確認できたら、高脂肪食給餌による食事誘導性肥満により、マウス生体レベルでApobec2欠損が抗肥満作用を発現するか検証する。
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