近年米国で発見されたD型インフルエンザウイルスは、ウシ呼吸器病症候群(BRDC)の患畜から高頻度でウイルス遺伝子が検出されることから、BRDCの原因ウイルスの一つである可能性が示されている。これまでに私たちは日本にもD型ウイルスが侵淫していることを初めて明らかにした。本研究では、わが国のウシやブタなどの家畜おけるD型インフルエンザウイルス感染の実態を大規模に調査し、そのBRDCとの関連性や、日本に存在するD型インフルエンザウイルスの生物性状を明らかにすることを目的とする。 本年度はまずリバースジェネティクス法の開発とその改良に取り組んだ。ウイルスRNAを発現するプラスミド7種とウイルスのポリメラーゼと核タンパク質を発現するプラスミド4種を293T 細胞あるいはHRT-18G細胞にトランスフェクションし、上清中に放出されるウイルス量を比較したところ、HRT-18G細胞の方が多かった。しかし、作製したウイルスの増殖性は、シークエンスは野生型と同一であるにもかかわらず、野生型よりも100倍程度が低かった。その原因を調べるために、ウイルス粒子内に取り込まれるRNA量を比較したところ、作製した組換えウイルスは野生型よりも少ない遺伝子分節があることがわかった。そこでトランスフェクションするプラスミドの割合を変更したところ、野生型と同様の増殖性を持つウイルスの作製に成功した。 疫学調査の一環としてウイルス分離を試みた。山形県で呼吸器症状を示したウシの呼吸器スワブから、ウイルスが分離された。分離されたウイルスはこれまで報告のあるD型ウイルスとは遺伝的に異なるウイルスであることがわかった。今後その性状を解析する予定である。
|