近年米国で発見されたD型インフルエンザウイルスは、ウシ呼吸器病症候群(BRDC)の患畜から高頻度でウイルス遺伝子が検出されることから、BRDCの原因ウイルスの一つである可能性が示されている。これまでに私たちは日本にもD型ウイルスが侵淫していることを初めて明らかにした。本研究では、わが国のウシやブタなどの家畜おけるD型インフルエンザウイルス感染の実態を大規模に調査し、そのBRDCとの関連性や、日本に存在するD型インフルエンザウイルスの生物性状を明らかにすることを目的とする。 疫学調査の一環としてウイルス分離を試みた。山形県で呼吸器症状を示したウシの呼吸器スワブから、D型ウイルスを検出した。その進化系統樹解析をしたところ、検出されたD型ウイルスはこれまでに報告のある遺伝的系統のいずれにも属していないことがわかった。さらに、スワブ検体を培養細胞に接種することで、ウイルスを分離した。この分離ウイルスの抗原性について、作出した抗HEFモノクローナル抗体パネルを用いて調べたところ、既知の系統に属するウイルス株とはHEF抗原性に違いがあることがわった。 今回検出・分離したD型インフルエンザウイルスは、既知のウイルス株とは異なる第4の遺伝学的系統を形成することが明らかとなった。この日本株の独自性についての知見は、ワクチン開発におけるウイルス株選択の重要性を示している。今後は、日本における第4系統ウイルスの侵淫・流行状況を明らかにするための疫学調査が必要であると考えられる。
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