研究課題
本研究は、犬のリンパ系腫瘍に関して、細胞外小胞の一つであるエクソソームを介した腫瘍細胞と免疫細胞の相互作用という新たな観点からその病態を解析し、特に化学療法耐性獲得の分子機構を解明することを目指している。本年度はまず4つのリンパ系腫瘍細胞由来のエクソソームが含有する分子プロファイルの網羅的解析および細胞株間での比較を行った。まずmiRNAに関しては、エクソソームに特に多く含有されるmiRNAは4細胞株においてそのほとんどが共通していた。しかしながらmiRNA含有プロファイル全体を比較した場合、エクソソームに含有されるmiRNAのプロファイルは、由来する親細胞のプロファイルに類似しており各細胞株間で違いが認められた。特に薬剤感受性株由来のエクソソームと薬剤耐性株由来のエクソソームに含まれるmiRNAの含有量を比較した際に、これらの間で有意に含有量が異なる複数種のmiRNAが抽出された。これらのmiRNAは、腫瘍細胞の増殖などに関与する細胞内シグナルに関わるタンパク質の発現を制御するとされており、今後その生物学的機能と薬剤感受性との関連の解明を行う予定である。次にエクソソームに含有されるタンパク質に関しても解析した結果、やはり特に多く含有されるタンパク質は4細胞株においてほとんどが共通しており、細胞骨格に関わるタンパク質などが含まれていた。しかしながら、薬材感受性株由来のエクソソームと薬剤耐性株由来のエクソソームでは含有量が明らかに異なるタンパク質が同定された。このタンパク質は腫瘍細胞の転移などその挙動に関与することが明らかとなってきている分子であり、このタンパク質に関しても今後その生物学的機能と薬剤感受性との関連を詳細に検討する予定である。
2: おおむね順調に進展している
上記のように、本年度実施した4つのリンパ系腫瘍細胞由来のエクソソームが含有する分子プロファイルの網羅的解析および細胞株間での比較によって薬剤感受性株および耐性株の間で含有量が明らかに異なるmiRNAおよびタンパク質が同定された。これらの分子は腫瘍細胞の増殖や転移に関与することが近年示唆され始めている分子であるものの、これまでに人医学および獣医学領域の双方において薬剤感受性との関連は詳細に検討されてきておらず、その生物学的機能の解明を行うことでさらに新たな知見が得られる可能性が高い。これらの知見はエクソソームの分子プロファイルという新たな観点から化学療法耐性に関する研究を遂行した成果と言える。現在この研究成果を学術論文として公表する準備を進めるとともに、すでにその生物学的機能の解明のための研究に着手している。
次年度は以下の3つの研究計画を実施する予定であり、特にエクソソームが免疫細胞や腫瘍細胞に与える影響に関して詳細に検討する計画である。まずは本年度に実施した、エクソソームに含まれる分子プロファイルの網羅的な解析結果に基づき、薬剤感受性腫瘍細胞と薬剤耐性腫瘍細胞の間でエクソソーム中の含有量が有意に異なっていたmiRNAおよびタンパク質の生物学的機能の探索を行う。次にリンパ系腫瘍細胞株由来エクソソームが免疫細胞に与える影響の検討とその責任分子の同定を行う。この目的のために健常犬から分離・活性化させたリンパ球・マクロファージに対し犬のリンパ系腫瘍細胞株から回収したエクソソームを添加し、RNAシーケンシングを用いて遺伝子発現プロファイルを解析しその変化を検討する。また、同様に分離・活性化したリンパ球およびマクロファージにリンパ系腫瘍細胞株由来エクソソームを添加した後、培養上清中の各種サイトカインを定量するとともに、細胞周期分布の解析やマクロファージの貪食能を解析しその変化を検討する。これらの研究の結果から、エクソソーム添加による免疫細胞の遺伝子発現プロファイルや表現型の変化において重要な細胞内シグナル経路を探索しエクソソーム側の責任分子を推定する。また、免疫細胞株由来エクソソームが腫瘍細胞に与える影響の検討とその責任分子の同定も行う。この目的のために健常犬から採血を行い、制御性T細胞の分離および単球のマクロファージへの分化誘導を行う。これらの細胞の培養上清から回収したエクソソームを犬のリンパ系腫瘍細胞株に添加した後、RNAシーケンシングを用いて遺伝子発現プロファイルを解析しその変化を検討する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件)
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