本研究はマスト細胞の脱顆粒・再顆粒化および再増殖のメカニズムを分子生物学的に明らかにすることを目的とする。昨年度メタボローム解析の結果認めた特定の有機化合物群の取り込み活性上昇の意義を明らかにするため、さらなる解析を実施した。まず、同化合物の除去培地では細胞の増殖能が失われることを腹腔内マスト細胞や骨髄由来培養マスト細胞などで確認した。また同化合物を代謝系に取り込む上で必要な変換酵素の阻害薬を作用させた際にも同様に細胞の増殖活性が失われた。なお、腹腔内マスト細胞を用いた初代培養の実験系ではこの代謝経路が再顆粒化自体にも必要であることを示唆する結果も得られた。興味深いことに、リンパ球など他の免疫細胞においてはその重要性がほとんど報告されていないことから、これらの実験結果はマスト細胞の代謝経路の特異性を示唆している。 脱顆粒に関する解析では小胞体ストレス応答の中心的役割を担う分子の1つであるERN1の活性化制御が脱顆粒反応と密接な関連があることを明らかにした。中でもERN1の活性化抑制により細胞内カルシウム流入および脱顆粒が抑制されることをin vitroおよびin vivo実験系により明らかにした。このうち、in vitro実験系においてはマウス由来細胞だけでなく初代培養を含むヒトマスト細胞においても同様の機構を確認できたことから、これはマスト細胞の一般的性質として小胞体ストレス応答分子と脱顆粒に密接な関連があることを示している。
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