研究課題/領域番号 |
17H05045
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
宮本 圭 近畿大学, 生物理工学部, 講師 (40740684)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | リプログラミング / 転写 / 核移植 / 初期胚 / クロマチン |
研究実績の概要 |
卵子に体細胞核を移植することにより体細胞核が初期化(リプログラム)され、未分化な状態の胚細胞が作出される。この過程において、移植された体細胞核から胚細胞に特異的な遺伝子の発現が開始する。しかし、この転写リプログラミングに直接関与する卵及び初期胚内因子を同定する有効な実験系は哺乳類において確立されておらず、それに関する知見は乏しい。本研究では、DNA複製能や細胞分裂能といった転写と直接的に関与しない機能を停止したマウス核移植胚を作出し、転写リプログラミングの解析に特化した核移植系を確立する。また、転写リプログラミング能だけを有する「転写解析特化型核移植系」を用いて、胚性遺伝子の活性化に関わるマウス初期胚内因子の同定を目指す。 転写活性を有するマウス4細胞期胚(B6D2F1マウス由来)をG2/M期に停止させる条件を発見し、G2/M期に停止したマウス4細胞期胚中に、マウス胚性幹細胞(ES細胞)あるいは分化したES細胞を導入した。細胞核の移植後、レシピエント胚の細胞周期に応じて、G2期様あるいはM期様の核構造へと移植核がリモデリングされた。また、これらリモデリングは移植後24時間以内に誘導された。さらに、筋芽細胞であるC2C12細胞(C3Hマウス由来)を移植した場合も、同様に核リモデリングが誘導されることを示した。そこで、C2C12細胞を移植した核移植胚をRNAシークエンシング解析に供試し、ゲノムワイドでの転写リプログラミングを評価した。RNAシークエンシング解析の結果、B6、DBA2、C3Hの3系統由来の転写物を確認し、移植されたドナー細胞であるC2C12細胞から4細胞期胚特異的遺伝子の発現が認められた。異系統のマウスゲノムからの転写物を識別するため、SNPを利用したバイオインフォマティック解析手法を検討した。これら新規核移植系のプラットホームを利用して、DNA複製の有無が転写リプログラミングに与える影響を今後明らかにしていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度の実験においては、新規核移植系を用いて、分化細胞核に誘導される核リモデリング現象の一部を解明した。特に、ヘテロクロマチンタンパク質の結合様式が移植核とレシピエントの胚の核で異なることを確認し、移植核のクロマチン状態が転写を積極的にサポートする状態であることを示した。さらに、当初の計画通り、細胞周期を停止していない4細胞期胚を核移植に用い、RNA-seqを実施した。現在、B6、DBA2、C3Hの3系統由来の転写物を正確に分類するバイオインフォマティック解析を発展させており、新たに解析パイプラインの構築を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は以下に示す2つの方向性で研究を発展させることを計画している。 (1) 転写リプログラミングに伴うエピジェネティック修飾の変化 平成30年度の実験より、移植核とレシピエント胚の核において、構成的ヘテロクロマチンの状態が異なる可能性が示唆された。そこで、ヘテロクロマチンの形成に関わるエピジェネティックマーク(H3K9me3など)が核移植後に変化する様子を明らかにする。また、移植する分化細胞核のエピジェネティックマークを胚性の核様へと人為的に変化させることにより、転写リプログラミングの効率が上昇するかについても検討する。
(2) DNA複製の有無が転写リプログラミングに与える影響を解明 これまでの実験では、DNA複製後に細胞周期を停止させ、その後4細胞期胚にC2C12細胞を移植し、RNA-seqを行った。また、DNA複製前の4細胞期胚に核移植し、DNA複製を誘導した後に細胞周期を停止させ、上記胚と同じ期間だけ培養した胚を作製した。即ち、DNA複製を経ずに転写リプログラミングを受けた核移植胚と、DNA複製の後に転写リプログラミングを受けた核移植胚の作製に成功した。これらの核移植胚において、移植核からの転写物をバイオインフォマティック解析により同定し、DNA複製が転写リプログラミングに与える影響を明らかにする。
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