研究課題
本研究では、DNA複製能や細胞分裂能といった転写と直接的に関与しない機能を停止したマウス核移植胚を作出し、転写リプログラミングの解析に特化した核移植系を確立する。また、転写リプログラミング能だけを有する「転写解析特化型核移植系」を用いて、胚性遺伝子の活性化に関わるマウス初期胚内因子の同定を目指す。転写活性を有するマウス4細胞期胚(B6D2F1マウス由来)をG2/M期に停止させる条件を発見し、停止4細胞期胚中に、マウス胚性幹細胞(ES細胞)あるいは分化ES細胞を導入した。細胞核の移植後、レシピエント胚の細胞周期に応じて、移植核がリモデリングされた。また、これらリモデリングは移植後24時間以内に誘導され、ヘテロクロマチンやユークロマチン形成に関与するヒストン修飾についても、移植核がレシピエントの胚様にリプログラムされることも発見した。さらに、筋芽細胞であるC2C12細胞(C3Hマウス由来)を移植した場合も、同様に核リモデリングが誘導されることを示した。そこで、C2C12細胞を移植した核移植胚をRNA-seqに供試し、ゲノムワイドでの転写リプログラミングを評価した。RNA-seqの結果、C57BL/6、DBA/2、C3Hの3系統由来の転写物を確認し、移植されたドナー細胞であるC2C12細胞から4細胞期胚特異的遺伝子の発現が認められた。異なる3系統由来の転写物を識別するため、新たなバイオインフォマティック解析手法を提示した。これら新規核移植系のプラットホームを利用して、DNA複製の有無が転写リプログラミングに与える影響を検討したところ、DNA複製は転写リプログラミングに影響を与えないことが判明した。さらに、ドナー細胞からの胚性遺伝子の活性化に関与すると考えられる候補転写因子もバイオインフォマティック解析により同定した。
2: おおむね順調に進展している
令和元年度の実験においては、年度初めの計画通り、核移植後のエピジェネティック修飾状態の変化を明らかにした。特にヒストンH3K9me3において、局在に大きな変化が見られることを発見した。さらに、核移植胚が3つの異なるマウス系統の転写物を有することを利用して、バイオインフォマティック解析により3系統のマウス転写物を選別する手法を発展させた。この解析法を用いて、ドナー体細胞から胚性遺伝子が活性化することを明らかにし、さらにドナー体細胞の転写リプログラミングに関与する可能性のある候補転写因子を同定した。そして、ドナー核が核移植後にDNA複製を経た核移植胚と経ない核移植胚を作製し、DNA複製が転写リプログラミングに与える効果を検証したところ、両群間で有意な差は検出されず、本実験系においてDNA複製は転写リプログラミングに必ずしも必要でないことを示した。
最終年度である今年度は、以下に示す2つの方向性で研究を進め、今までに得られた結果をまとめて論文として発表することを計画している。(1) 転写リプログラミングに関わる転写因子の同定令和元年度の実験より、ドナー体細胞の活性化に関与する候補転写因子を複数同定した。今年度は同定因子の働きをsiRNAで阻害し、転写リプログラミングにおける役割を検討し、転写リプログラミング誘導に関わる胚内因子の同定を試みる。(2) 種々の細胞への転写リプログラミング誘導本実験で示した4細胞期胚への新規核移植法により、ES細胞より分化した細胞やC2C12細胞に転写リプログラミングを誘導可能であることを示してきた。本核移植系の利点の一つは細胞分裂なしに転写誘導可能な点である。そこで、通常の未受精卵への核移植によっては転写誘導が困難である細胞を用いて、本核移植系により転写リプログラミングを試みる。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (26件) (うち国際学会 1件、 招待講演 4件) 備考 (3件) 産業財産権 (1件)
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