胚休眠制御カスケードの全容を解明するために、下記の5つの課題に取り組み成果を得た。 1. 私たちが同定したZ染色体上に座乗する休眠制御遺伝子Lmは転写因子をコードしていた。本研究ではLm制御下にある遺伝子を同定するためにChIP-seqを行う予定だったが、そのためにLm遺伝子の上流あるいは下流にFLAGタグを導入したノックイン(KI)カイコを作出する必要があった。前年度に引き続きCRISPR/Cas9システムを用いてKIを試みたが、KIカイコを得ることができなかった。 2. Lm発現部位におけるトランスクリプトームを把握するために、Lm遺伝子の下流にEGFP遺伝子を導入したKIカイコを作出しようとしたができなかった。 3. Lmと同じシステムに関与する5つの遺伝子についてノックアウト(KO)カイコを作出し、休眠性への影響を評価した。すると、4つのKOカイコにおいて休眠性がLmと同様に変化した。この結果により、Lmの転写因子としての機能よりは、Lmが関与するシステムそのものが休眠性を制御しているとする新規の知見が得られた。 4. pndおよびpnd-2遺伝子は、胚子が休眠に入るときに機能する遺伝子である。しかし、その分子機能は未知である。2018年度までに行った正常カイコと各KOカイコの比較トランスクリプトーム解析により、各遺伝子に制御される遺伝子群の全容を把握した。2019年度は、同様の時期に機能する遺伝子l-nの分子実体を明らかにするとともに、KOカイコのトランスクリプトーム解析を行った。 5. ヤママユガ科であるシンジュサンの蛹休眠を制御する遺伝子を同定するために、非休眠性のエリサンを繰り返し戻し交雑することで作出した休眠エリサン系統のゲノム配列を解析し、制御遺伝子の候補を得ている。候補遺伝子は他のチョウ目昆虫で保存されている一方、エリサンでは機能欠損が疑われる変異が存在した。
|